第11章 腕っ節のない女
「──っ!」
身体を一気に取り戻すかのような感覚、自我を掴んだと確信できる意識。『名前』は2度目にして今度は本当に目が覚めたのだと確信した。目だけ動かすと見慣れた視界のほとんどを埋める金色の装飾、壁……ここはグラン・テゾーロ、現実だ。
「やっと起きたのね、おはようお騒がせさん。」
「……カリーナ」
そう声をかけられて目を向けると右斜め下に椅子に座り足を組んだカリーナがやれやれといった様子でこちらを見ている。
そして同時に自分が今、身体中に機械が取り付けられた状態で寝かされていたことに気づいた。バイタルセンサが規則的に心音を刻んでいることを示している。
「……これ、どういうこと?」
「ダブルダウンから聞いたわ、無茶したツケよ。あなた自分の身に何が起きたかわかってる?」
え?と聞き返すとカリーナは立ち上がり、少し遠くにあったサイドテーブルに乗る金ぴかのデジタル時計を持つとまた同じ椅子に戻った。
「まあ無理もないわね、今日は〇月▲日……『名前』、あなた2日も寝ていたのよ。」
「───2日もっ……う゛っ!?」
驚いて起き上がろうとすると、取り付けられたたくさんの機械の重さと何よりその事実を示す身体の痛みがのしかかり、呻き声をあげることしか出来ない。そしてその痛みは私がこうなった所以の2日前の出来事を思い出させた。
「痛っづ……ああ、何となく思い出してきた……」
「当たりどころが悪くて6針もその頭を縫ってるんだから当然よ」
「はあ?私6針も塗ってんの……」
現世で不幸人間だったとはいえここまで不幸に見舞われたことはない。もはや違う意味で目眩がしてきた。
「とんでもない迷惑をかけたことだけはわかった……すみませんでした……」
「そうね、何せ頭をぶん殴られただけならまだしも、最初の1日は死線さまよってたしね!ウシシシッ!」
「私、よっわ……ほんっとザコじゃん……」
自分の弱さを痛感して半泣きになる『名前』を見てため息をつきつつ、カリーナはくすりと笑った。
「良かった、無事で。」
「うぅ……えっごめん聞こえなかった何て?」
「何でもないわ、まあそれよりも起きたからには話さなきゃね。」
「え?」
カリーナは組んだ膝に頬杖をつき、小悪魔のような笑顔を浮かべながら話し始めた。
「あなたが寝てからずっと、テゾーロがつきっきりだったわよ」