第11章 腕っ節のない女
そう言うと彼は驚いて一度目を見開きキョトンとしたものの、すぐ困ったように笑った。
「!──ハッ、この状況でもそんなことが言えるのか」
「ふふ……」
『名前』は彼が笑ったのを確認し、そこでずっとどこかで張り詰めていた緊張の糸が弾けたのを感じた。前を向き ふう と一息つくとまるで誰もそこにいないかのように、独り言を言うように彼女は
「…………少し、疲れた。」
「?……───なっ!?」
そう呟くと糸が切れた操り人形のようにがくりと倒れ込んだ。
「し……しろ──!?『名前』!?」
遠くで何かを叫ぶテゾーロの声が少しずつ消えゆくのを感じながら、『名前』はその世界を後にした。
…
「──おい、アレをお前はどう思う?」
「……」
同時刻、先ほどまでの騒動、そして『名前』をテゾーロが連れ帰るのを見届けた二人の男がいた。一人はレイズ・マックス、もう一人は軽い変装をほどこした、ジャケットのフードを深く被る誰か。彼らはWILDCOWから少し離れた、比較的落ち着きを取り戻しつつある路地で立ち話をしている。
「まあ見た通りとしか言いようがないが、何の能力も持たないただの女。──だが異常なほどこの船ではその価値を買われている。」
「……経歴は?」
「ハッ、お前ももうとっくに調べた尽くしただろう?一切無い。強いて言うならつい最近やっと妙な手配書引っさげてるぐらいだな。それもまた謎深いモンだが……」
レイズ・マックスの返しに対し男は小さく笑う。そして口元に弧を描いた。
「ともかくアイツはその異常性か何か、変な奴を引き寄せやすい。危なっかしくて仕方がねェ……だからこそ俺たちも良しとされているのかもしれねェがな。」
「確かに──少し心が踊る。」
男は弧を描いたまま、レイズ・マックスの話をただ聞く。彼からは周囲の者とは一風違う、異様な空気を漂わせていた。それは彼の強さを表しているのか否か。彼は静かに片手の関節を鳴らし、昂りを収めた。
その様子を見て今後の展開に期待を込め笑みを浮かべながらレイズ・マックスは煙草に火を灯し咥えた。
「お前にアイツを護ることが出来るか?」
「──あぁ、任せろ!」
男はそう言うとニカリと笑い、そのフードから覗く白い歯を光らせた。