第11章 腕っ節のない女
『名前』を支えていない、開いた片手を彼らに向け、能力を行使していることを表すかのように手に力を込めつつゆっくりと彼の手が閉じられていく。その度にどんどん彼らに金が侵食していった。
「いやだああああ!!!助けっ……死にたくない!」
「殺さないでくださっ……あああ、すみませんでしたあああ!!!」
「あああ、俺わざとじゃ、ぎゃああああ!!!」
脚、腕、そして胸……と男らはどんどん金像と変わり果てていく。 もうあと少しで顔も全てが固まろうとしていた時だった。
「やめて、テゾーロ。」
「!?」
『名前』がそう言いテゾーロの男らに向けていた片腕に手を添えて彼を制止したのだ。それに驚いたテゾーロは目を見開き彼女に目を向け、その能力を停止させた。『名前』はそのままか細い声で続けた。
「……子供が、見てる。」
彼女の声にハッとしたテゾーロはそこで初めて周囲の視線を認識した。その全てが自身に対する畏怖であることを。同時にいつの間にかその場から逃げていた、ダブルダウンのもとにいる、半泣きの子供ことリッカが彼の目に入った。
「……!」
勿論、今までテゾーロは子供がいようがお構い無しに人を金像にすることなんてしょっちゅうだった。窒息にもがき苦しむ様は何とも哀れだったし、周りなんてどうでもよかった。それにこの船の利用客はそういった、惨めな債務者を好奇の目で見ては楽しんでいる連中だったのだから。
それなのに、何故か彼女にそう言われてはもうこれ以上は今すべきではないのだろうと思えた自分がいたのだった。
「──テゾーロ様!」
「……タナカ」
自分の名を呼ばれ振り向くと、『名前』の帰りが遅いためともに探させていたタナカが自身を呼んでいたことに気づく。声色の様子を伺うに何度も私の名を呼んでいたのだろうか。
「悪い、気が飛んでいた」
「いえ、ですかこれは一体どういう……」
タナカが『名前』の息絶えだえな様子と、一先ず死を回避し転がったまま、すすり泣く部下らを交互に見る。説明したいところだが自身も『名前』が殴られかけていたところに来たのでなんと言うべきか口ごもってしまった。
そんなテゾーロの様子を見てタナカさんは彼にも自分自身にも冷静さが欠けていることに気づく。同時に我を失っているのだと。
「……一先ずテゾーロ様、『名前』様を。」