第11章 腕っ節のない女
「お前なんか、死んじまえ!」
「!」
そうしてまたも我慢の限界を迎えた男は割れた瓶を再度私たちに向かって振り上げた。足元でリッカが おばさん! と私を叫ぶ。撫でていた彼の頭をそっと自身に引き寄せ、『名前』は自分の身を案じて目を閉じその攻撃を待った。
…
「……──えっ」
不意に、腹部に身に覚えのある何かが回り傾く身体。背を支える少し柔らかな壁、少し早い心音。まさか、そんなはずはとは思いつつ、突然のことに開けた目を上に向け視界の濁りが溶けたとき。そこには私の主人がいた。
「テゾー……ロ……?」
そこでようやく私は今の一瞬でテゾーロに身を預けていることに気づいたのだった。
「────ぎゃああああ!?!!?」
途端耳をつんざく金属音と叫び声に目線を戻すと殴りかかろうとした男は掴んだ瓶ごと片腕が金で固められていた。それだけでなく金と化した彼の腕は普通じゃありえない方向に曲げられている。
ぼんやりとした意識のせいで目の前の出来事をきちんと受け入れることが出来ないが、先程見た、前を向くテゾーロの顔がとてつもなく恐ろしい表情になっていることだけはわかった。
「テ、テゾーロ様!?」
「なんでここに!?あの女を庇って!?」
対する男らは目の前に現れたテゾーロに驚き狼狽えていた。それと同時に『名前』が本当に幹部であることを理解し、青ざめていく。そうしてずっと黙っていたテゾーロが口を開いた。
「……随分可愛がってくれたじゃあないか、なあ?」
そう言いつつ口角は上がっているものの、目は笑っていないしそれどころか額に血管が浮き出ている。その様子に地面で痛みに転げまわる男の仲間らは更に恐れをなした。
「すみませんでしたっ!俺たちその……ええっと!」
「ハハハ───どうしたさっきまであんなに笑っていたじゃないか。お前達なりの理由があるんだろう?」
「ひっ!!!いやテゾーロ様っその」
「俺たち知らなくて!本当にあの」
もごもごとする彼らに対しテゾーロはさらに強くまくし立てた。
「真っ当な理由があるんだろう?私を理解させるほどの理由が───言えるよなあ!」
────途端直ぐに男ら全員の身体の至るところが金に染め上げられていった。
「「「ぎゃあああああああ!?!?」」」
バキバキと音を立て、いつも彼がするよりも数倍早く彼らの身体が金と化していく。