第11章 腕っ節のない女
「お待ちください、『名前』様!どちらへ!?」
「あっ 」と思い出したように振り返り、私に声をかけた付き添いの彼を見る。そうだった、彼は私を見張らなければならないんだった。
「ここを右に出てすぐの店に行く。私は応援を呼んでおくから大丈夫、救護班が来るまでその子達をお願い。」
「! わかりました」
「応援!?なんだよ俺たちが悪いってか!?」
「……さっきみたいに暴れられたら困るので、大人しくしてくだされば何もしませんよ。」
ぐちぐちと文句を言いまたも納得いかない様子の彼らを無視して今度こそ外に向かう。後ろからダブルダウンやリッカのこちらを心配する声、テンポのすすり泣く声が聞こえた。
「(……私、弱いなあ。)」
子供たちからは大人の私はどう映っているのだろう。そんなことを思いつつ私は店を後にした。
外に出て男らが出てきたのを確認し、移る店に体を向け歩を進める。……が、彼らの足音が聞こえない。後ろを向くと彼らはニヤニヤしたまま立ち止まっていた。
「どうされました?」
「へへへ、いやァな……俺たちがお前に従う理由がねェだろう?」
「だってよォ、俺たちはお前のことそもそも認めてねェんだぜ?」
「あんな紙切れ見せられたってなあ?ハッハッハッ!」
そう言うと彼らは私を嘲笑し始めた。外にいるのもあって周囲の視線が刺さる。彼らはどうしても従いたくないらしい。ああ、なんて面倒なんだろう。力が全てで生きてきた彼らをどうやって納得させればいいんだろうか。
「……不満はわかりますが、道端で話すことではないでしょう。今だけは付いてきて貰えませんか?」
「へへ──なァあんた、テゾーロに"ナニ"やったんだ?」
「は?」
「幹部なんだろう?どうせ枕営業でもしてオムツ履かせて貰ってんだろう?!」
『名前』が否定しようと口を開けると彼らはそれまでよりも酷く下卑た笑いを上げた。……確かに私は自分の力で上り詰めた訳でもなくて、この地位はある意味、船の利用者や部下から反抗されない為に与えられた場所。
私は何匹もの虎の威を借る狐だが、私が身体を売った事実もなければ主人はそれを受け入れたわけでもない。彼の言葉は私だけでなくグラン・テゾーロそのものを馬鹿にしているのと同義だ。