第11章 腕っ節のない女
「はっ──みっともない、まず相手は子供。それにそのスーツはこちらが支給したものでしょう?無償で。」
怒鳴る男と賛同する仲間を見て、なんて愚かだろうと失笑する。『名前』は彼らが使っていた席に乱雑に置かれた飲みかけの酒や食べかけの料理に目を向けた。
「……あれだけ豪遊できるならスーツの予備ぐらい買えるでしょう?そもそも、グラン・テゾーロの給料は服ひとつに難癖つけるほど低くない。そんな雑な経営してない。」
どれだけ下っ端だとしても、債務者で働かされているダブルダウンらと比べれば彼らは余裕のあるお給料を貰えるはずだ。初任給でこれほど遊んでられているのが表しているだろう。それにそんなこと、いつもの事務処理で扱ってる私が1番わかってる。
『名前』の反論に図星をつかれた彼らは少し狼狽えたものの、犬のように私に吠えた。
「こ、子供だろうが何だろうが関係ねェ!債務者とテゾーロ様の配下ってだけで俺たちが上だ!」
「反抗した奴らが俺らに歯向かえる理由なんてねえんだよ!」
倫理観の欠如が凄いなあと客観視し敵役としては完璧だと逆に感心し、同様に理性が無いのだなと呆れた。
「……どちらにせよ、ここで働いている以上彼らは私たちの仲間。仲間を傷つけることは私が許さない──それに従業員に危害を加える貴方たちはこの店に相応しくない。」
「じゃあ出てけって言うのかよ!」
彼はそう言い机を叩きつけると食器が揺れ、音を立てた。これ以上いると従業員どころかこの店に損害がでる。経費に響くしダブルダウンにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。場所を変えて応援を呼ぶのが最適だろう。
あぁ……テゾーロに早く帰ってこいと言われている上に、その言いつけは目の前の"彼ら"を避けるがためだというのに。あとで何言われても仕方がないな。
「──あなたがたの言い分はあとで好きなだけ聞きます。場所を変えましょう。こちらが案内しますから。」
「……チッ」
そう告げると彼らは納得がいかないいものの、『名前』が幹部ではないと判明しているわけではないし、それにこれ以上は埒が明かないと察した。そうして男らはまだ飲みかけの酒瓶いくつかを掴み移動することを渋々了承した。
とりあえず何とかなりそうだと一息ついて『名前』は店を後にしようと出口へ向かった。