第11章 腕っ節のない女
反省しつつ今後の対策について脳内で巡らせる。自分に腕っ節と実力があれば……とため息をつきつつ何気なく時計に目をやると、結構な時間が経っていた。付き添いの彼の視線に気づき振り向くと「そろそろ、時間です」と目で伝えられる。
確かにこれ以上はテゾーロに遅いと怒られてしまうだろう、何より私だけならまだしも、せっかく付いてきてくれた彼に責任が伴ってしまう。彼の言うとおりもう戻らなければ。
「ごちそうさま、私そろそろ──……」
『名前』がダブルダウンに帰ることを伝えようとしたその時、──グラスの割れる音と怒声が店に響いた。
__ガシャン!
「……ぎゃああ!?何やってんだテメェ!!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
何があったのかと振り向くと、テンポが手を滑らせて配膳していたお酒を騒ぐ新入りの彼らの1人にぶっかけてしまったようだった。きっと彼女は彼らに怯えて手元が震えてしまったのだろう。目が既に決壊寸前だ。
ハッとしダブルダウンがいるほうに目を向ける。彼は厨房に夢中で配膳を指示し、ぶちまけてしまったテンポに気づいていない。───あ、これはまずい と直感が働く。だがあまりにも急すぎてどうやって私が彼女を逃すべきか思いつかない。
「お前なんてことしてくれたんだ!払えるんだろうな、ああ!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「払えるかって聞いてんだよ!」
謝るばかりの彼女に苛立った男はテンポに手をあげようと振りかぶった。間に合わないと思った矢先、テンポの前に素早く人影が現れる。リッカが彼女を身を挺して守ったのだ。
「ぐあっ!!」
「──お兄ちゃん!?」
妹の代わりに殴られたリッカは軽く吹き飛び呻き声をあげる。テンポが兄を追い駆け寄った。一方殴った男は突然現れた兄に驚いたのか数秒固まったのちに突然仲間とともに爆笑し始めた。
「ぎゃはははは!ダセー兄貴!」
「あーあー可哀想」
笑い続ける男どもに対し、むくりと起き上がったリッカが彼らを睨みつける。テンポは兄の赤く腫れた頬を見て心配しつつぽろぽろと泣いていた。
「お、お兄ちゃん……」
「テンポに謝れ!」
「はあ?」
殴られたことをものともしないでそう言うと、笑っていた彼らは癪に触ったのか顔を歪めた。