第11章 腕っ節のない女
そらあ大変だったなあ、とダブルダウンは微笑み返してくれる。
そうして数十分ほどお互いを労いつつ食事を楽しんでいると、店の扉が乱暴に開く音がその場の空気を壊した。その場にいた店員、客が反応し、静寂が訪れる。入口に目を向けると音の正体はグラン・テゾーロの部員らとわかった。
「……チッ、しけてんなあ」
「早く飯にしようぜ」
どうやら彼らにとって私たちの反応は気に食わなかったらしい。ダブルダウンの冷たく低い出迎えの言葉を無視して彼らは適当にテーブル席についた。
「(──態度があからさまに悪い、あの品のなさは間違いなく新入りの一部、だ。)」
いつも見る私の部下、そして付き添いの彼などからほとんど見られない酷い態度を見て『名前』はそう確信した。直す気も無い冷徹な視線を彼らに向けているとその奥の席に座る、私の付き添いもまた穏やかな表情が無くなっていることに気づく。
グラン・テゾーロでは高額な賭博を中心に活動している街であることから高貴な者が溢れかえっている。もちろん海賊やその時々の船近くの市民、海軍など比較的一般人に近い者も対象だが、ほとんどが権力者である。
そのため最初こそ荒ぶっているものの、この街、いや国の空気に影響を受け落ち着く者が多い。それに荒ぶると変な輩に目をつけられるし最悪高貴な客に消されてしまうことだってある。損でしかないのだ。
そんな場所でこの態度を依然とれるということは洗礼を受けていない、もしくは勝手に消えていくのだが(理由はさまざま)彼らはどうなってしまうんだろう?できれば命あるまま更正して欲しいものだ。
ダブルダウンは黙ったまま彼らのもとに向かい注文を伺いに行った。ソファにて足を組み、テーブルに足を乗せている彼らにいくら私が力不足で躾をすることが出来ないとはいえ心底申し訳ないと感じる。
注文中もその後もぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる彼らを後にダブルダウンはカウンターへ戻った。『名前』は彼にだけ聞こえる声で謝罪する
「……ごめんなさい、あまりにも監督不行届きすぎる」
「いやアンタのせいじゃない、いつもの事だ」
そういい彼は厨房へと姿を消した。それまであった穏やかな空気が嘘かのように、騒ぐ彼ら以外は重い空気になる。
躾不足、まさかこれほどまで酷いとは。やはり定期的に現場を見に来るべきだと痛感した。