第11章 腕っ節のない女
誰だか見当もつかないし、多分物語の本筋には関係の無い革命軍のメンバーだろう。私はこの物語の部外者ほかならないのだから。
きっと何事もおかしなことがなければ彼は無事帰ってくるだろう。いや、そうでなければならないが。私は最後に彼に「幸運を。」と告げて別れた。
視界の端にいた、私とレイズ・マックスを監視していた付き添いのもとへ行き、礼を告げて私たちはWILDCOWへと向かった。付き添いの彼からは心の奥では何を考えているのかわからないが、表情を見る限り現時点では警戒が見えない。多分レイズ・マックスは大丈夫だろう。
そうしてWILDCOWに着いた私たちは彼に礼代わりに昼食を奢り、いつもの様に『名前』はカウンター席に座る。付き添いの彼は私とこの場にいるダブルダウンらの親交の深さを察して、少し離れた席に着いた。
ダブルダウンは入店時に「いらっしゃい」と言ったきり静かにグラスを拭いていたが、部下が離れたのを見て『名前』にニヤリと笑みを向けた。
「大変そうだな、いろいろと。」
「うん、その様子だとカリーナから聞いてたみたいだね。」
「ああ、だいたいは。」
そう言うと彼は労いの意味を込めて彼女の手元にグレープフルーツソーダを添えた。ありがとう、と応えつつ軽いチップを返す。そんなつもりじゃないんだが、と困ったように笑う彼は少し間を置いてからそれを受け取った。──そんな彼を見るのが楽しくてわざと渡しているのだが。
「!ああリッカ、テンポ。もう大丈夫だぞ。」
「『名前』お姉ちゃん、来てくれたんだ!」
ダブルダウンが私が付き添いの部下と来た故に、念の為裏に控えさせていた彼らが掃除用具とメニュー表を持ってわらわらと出てきた。テンポが笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「久しぶり、元気だった?」
「うん!」
少し恥ずかしそうに彼女は応えると、逃げるように他の席の拭き掃除をしに向かいメニュー表を並べ始めた。恥ずかしがり屋の彼女にしては最初と比べるとだいぶ素を出してくれるようになったように思う。
「リッカも、元気?」
「……うん」
奥で既に掃除を始めていた彼は若干不貞腐れたような態度で返事をすると直ぐに背を向けて手に持つホウキとちりとりで掃き掃除を再開した。2人ともいつも通りで何よりだ。
「……ここは変わらなくて嬉しい」
「何だお疲れか?」
「うんとっても。」