第11章 腕っ節のない女
クロコダイルのことやらフラミンゴのことやらで久しく会えていなかった彼に心が高ぶる。話がしたい。そんな『名前』の様子に付き添いの部下も気づいたようだった。
「どうされましたか?」
「知り合いがそこにいて──少し話したいんだけれどダメかな」
「!ええと……」
『名前』がそう問いかけると、部下は1度テゾーロからの命令を思い出しその意味を考え直した。
「テゾーロ様からは『名前』様をお護りするようにと仰せつかっています。ですが見たところあの方は脅威の1つである"同僚"では無さそうですし……」
「彼は海賊じゃない、その───取引先だから適当にはしたくないんだ」
彼は熟考していたがニコリと微笑み彼女の願いを許諾した。
「『名前』様がそういうなら少し席を外します。──ただ完全に離れることはできません。お2人が視界に入り、すぐに向かえる距離でしたら大丈夫ですよ。」
「ありがとう」
『名前』は彼にお礼を言うと近くにいるレイズマックスのもとへ向かった。部下は少しだけ離れたところで私たちを見ている。やっとこさ私が来たのを見てレイズマックスはニヤニヤと笑っていた。
「ついにお付まで従えたか、幹部様も大変そうだなあ」
「ははは……いろいろあって」
「ハハ、まあ噂は聞いている。実際来るやつも"お前も"、大変だったんだろ?無事で何よりだ。」
「!さすが革命軍、情報が早い」
『名前』は彼が大方ドフラミンゴのことやクロコダイルはどうかはわからないが、私への襲撃を知っているのだろうと察した。さすが革命軍といったところか。
「ところで今日はなにか御用でしょうか?」
「ああいや、挨拶といつもの礼をしようと思っただけだ。契約通り今月も俺の名を消してくれているんだろう?」
「ああ、いえお互い様ですよ」
彼の名を消すというのは私と彼との契約によるものである。以前レイズマックスがこの船の一部の店の用心棒をしてくれていたのを知り両者間で協力し合おうと契りを交わした。
リターンをどうするか話し合った結果、ギャンブラーの彼かつ革命軍の彼がテゾーロ側に目をつけられないよう、バカラのスペシャルリストから彼の名を削除することにした。これは毎月ごとに更新され、無敗のギャンブラーである彼は毎月確実に名を載せる候補に挙げられている。それを私が密かに消しているのだ。