第11章 腕っ節のない女
「さすがにもう十分だと思いますよ」
「いいえ、私の大切な可愛い妹に手を出そうとしたんですもの──私が許さないわ」
そう言いこちらに顔を向けて ふふふ、と私に笑いかける彼女は恐ろしさを感じつつもそれより幾分も美しく見えた。頼もしいが彼女は何度でも敵には回したくないと感じさせてくれる。
「……助かります、バカラさん」
「貴方は私にとってもこの船にとっても欠かせない大切なコだもの、──それに」
彼女は言葉を続けつつ私の両頬を手袋をはめた両手でそっと包み込み、私の顔を彼女の方へ向けさせた。彼女はにっこりと微笑みながら
「バカラさん、じゃなくて──バカラお姉さん。……でしょう?」
彼女は愛しそうに『名前』を見つめつつ、戸惑う『名前』の両頬を親指でそっと撫でた。
───
───ということが以前あったのだ。
「……あの時のバカラさん、すっごく綺麗だったなあ──……
───じゃなくて!」
ハッと我に帰り今度は綻んでいた私の両頬を叩き意識を戻した。
とにかく、彼女のように私は私が思う以上に多くの人に気にかけて貰えている。そのため無意味な被害を生まないようにしなければならない。こうして私は彼の言う子守りを渋々納得することになった。
日を跨いで場所は繁華街。騒動もあってしばらく受け取りに行けなかった新聞を貰いにWILD COWへと向かっていた。いつもは単独行動だが横には付き人として部下が1人同行している。彼は突然私が自身の両頬を叩いたことに驚きオロオロとしていた。
「急にどうされたんですか!?」
「いや何でも……それよりごめんね、外出を控えようってのに早速呼んで」
「そうですか──いえ!『名前』様を守るためですから、お気遣いなく!」
「本当に助かるよ、ありがとう」
お礼を伝えると彼は照れくさそうに頭を掻きながら謙遜した。だが実際横に誰かがいるというのは安心感がある。貴族や海賊に絡まれることもないし。
……行動を固く制限する小難しい人じゃなくて良かったというのが本音だが。
早いとこWILDCOWへ行って適当に昼食を済ませようかと考えていると視界の端にひらひらと私に手を振る人が見えた。
「──!レイズマックス」