第11章 腕っ節のない女
「暴力で成り上がってきた奴らばかりだ、お前の立場が納得できないと狙われる可能性が高い」
「なるほど……ほんとこの世界は物騒だな」
「ん?」
「なんでもないです」
次から次へと舞い込む面倒事、そしてそれに巻き込まれることに当たり前だし前から理解していたが思わず本音が吐露してしまう。そして数ヶ月過ごせど抜けないこの世に対する俯瞰視点に悟りを開きつつテゾーロの会話に意識を戻した。
「こちらもできる限りのことはするが用心してくれ」
「わかりました、最低限の外出を努めます。少なくともこの部屋にいる限りは会うことはないでしょう?」
「ああ」
反逆を目論む輩がいるとはいえ、有難いことにこの地位でいる私が得たこの部屋にいる限り彼らに用などないだろう。おおよそ出来たとしてもその頃にはきっと落ち着いているはずだ。それに来るとしてもこの階層に来るにはタナカさんの協力がいる。
とはいえ、それを今まで予想していなかったため関係なく商談や顔合わせの用はある。しばらくは最低限といっても脅威は避けられないなとため息をついた。
ふと空中から視線を戻すとテゾーロがテーブルに置かれた紙にペンで何かを書いていた。黙って眺めていると彼は書き終え紙を横になる私の顔真ん前に置く。
「もし外に出るならここに連絡しろ、"子守り"の手配をするよう伝えておく」
「はぁ ありがとうござい───"子守り"!?」
さらりと言われた貶しに歯向かおうとしたが慣れて忘れていた金で固められた両腕がそれを許さなかった。ガクンと揺れ動いただけの私を彼はクスクスと笑っている。
「どうした、不満か?」
「子守りって───いや、少しわかりますけどもう少し、言い方があるでしょう!?」
「主に簡単に屈服させられて、そのうえ部下の脅威から守られなければいけない。──ハハハ、これは子守りだろう?」
齢20を超えた私が子守りなど言われなければいけないのか!流石にプライドがある!と言おうとしたが、その様子を可笑しそうに笑い続けるテゾーロがわしゃわしゃと私の頭を撫でた。
「とにかく、痛い目にあいたくなければ気をつけることだな。それにお前の痛みに黙る者ばかりじゃないことは知っているはずだ──せっかく迎えた部下が減ることになるだろう?」
「っ!」
彼の悪い笑みに背筋が凍ったような気がした。そうだ、有難いことに私は良い人に恵まれている。