第11章 腕っ節のない女
とくに違和感も何も覚えずに算出された数字を見て経費申請を許可していたが、自分の思い込みで対応が遅れる可能性だって有り得ただろう。可笑しさに気づくべきだった。今まで通りに戻りつつあると思っていたけれど甘かった。私はまだわからないことが多いのに。
「……わ゛!」
彼から語られたその話に反省していると強く頭を撫でられた。それに驚き無意識に強ばっていた顔が若干緩まる。
「──落ち着け、別に反省させるために話した訳じゃない。そもそもお前が抱え込む問題じゃないだろう。」
「そうですけれど」
「これくらいのことは何度も乗り越えてきた、安心しろ」
そう言ってわしゃわしゃと有無を言わさんとするように撫でる彼の手に『名前』は強制的に心和ませられた。とはいえ気を引き締めなければ、彼の気まぐれで解雇は勿論。急な事態に対応出来なければ私の命も危うい。一度落ち着きを取り戻した『名前』を見てテゾーロは彼女の頭から手をどけ、話を続けた。
「それに内乱ぐらいお前が来る前からある、問題は迎えた海賊の躾が間に合っていないことだ」
「(……間に合っていない?)」
その言葉にピクリと反応し疑問が浮かぶ。間に合ってない、とは?天竜人やそれに相応するお客の予定はまだまだ先のはずだ。
「そんな予定ありましたっけ」
「いや、急用はない。だが……お前の身が危ういかもしれん」
「えっ」
まさか自分のことだとは思わず素で驚いた。え?私何か、こんなに注目を浴びるようなことをし──……あっ、
『ぶっちゃけるとあいつ、だいたいの面倒事の元凶なんだよね』
──脳内に『青年』の言葉が過ぎる。そうだ、彼が言うにはだいたいの厄介事の元凶、ドフラミンゴと関わった時点で私はこうなるのもおかしくないんだった。
「は、ははは……」
焦るも数秒間で諦めの境地に着いた『名前』を、テゾーロは相当疲れが溜まって行くところまで行ってしまったのだと解釈し、若干の恐れを覚えた。ああやはり無理やりにでも休ませなければ……と思ったのは言うまでもない。
「厄介事を増やすようで悪いが、海賊の世界で生きてきたあいつらにとってお前を暴力だけで測り、強さを見誤る者が多い。」
「事実、その方面に関しては私はこの船、いや世界一弱い自信があるんで想定内です」
この通り容易に身動きとれなくなってますし、と付け加える。