第11章 腕っ節のない女
今度これについて『青年』に相談しようと思いつつ同様に彼に聞きたいことが大量にあるな、と既に私は気疲れしていた。ため息をつく私の横にいるテゾーロは撫でる手を止める。
「……お前が過去に何かをしたのだとしたら」
ぽつりと呟いた彼の言葉は『名前』の耳には上手く届かず、彼女は思わず聞き返す。
「え?」
『名前』はここで初めて彼の方を向いた。──少し俯きがちに、こちらを見たまま黙っている。しばらく彼を見ていると私が聞き返し返答を待っていたのに気づいたのか ああ と続けた。
「いや、ああそうだ。あの海賊はお前に対してだけだった。だが──……。」
「?」
言いかけてつぐんだ彼に急にどうしたのだろうと目を向ける。見ると彼の目は私に向いているもののその奥にある違うものを見ているようだった。
なにか悩みの種があるのだろうか、心配そうに見ている『名前』の視線にいたたまれなさを覚えたテゾーロは少し下手くそに話を変えた。『名前』も少し違和感を覚えるほどに。
「いや、なんでもない。それより少しお前に言わなければいけないことがある。」
「……そうですか、何でしょう」
なんとなく追求するのを控えた『名前』は彼のせいで横たわりつつも精一杯の真剣な表情をする。とうの彼はそんな彼女に目もくれず話を続けた。
「このところ負傷者が続出しているのは知っているか」
「!はい」
数週間前ほどだろうか。ドフラミンゴがむやみやたらに部下を怪我させた時のように、船内では復帰に長期間を要するレベルの負傷者が続出している。報告書では暴動の鎮圧とこの船ではいつも通りのことだが……何日も同様の報告が続きすぎている。
「けれどそれにしてはずっと続きすぎてますよね……?」
「その原因なんだが、最近部下を補充する形で数船か周辺の海賊を囲い新入りとして迎えたせいだ」
「つまり?」
「簡単に言えば奴らは元気すぎる──そのせいで内乱が増えている。あくまで部下とはいえまだ海賊の血が騒ぐのだろう。タナカやバカラ、ダイスにも奴らを強く躾けるように指示しているが、なかなか進まない。」
「なるほど、その様子だと影響も大きい……」
そういえば確かに医療部門の経費申請が急に増えていた。よく業務に支障をきたしそうな船周辺の海賊を蹴散らすのだが、そのためかと思っていたが内乱のせいだとは。