第11章 腕っ節のない女
「ならお前が隠れて2日連続徹夜していたとタナカが言っていたのは嘘か?」
「う゛っ」
──そういえば先日の徹夜中、デスクに身に覚えのない緑茶とおにぎりが置いてあってよく分からないまま食べた気がする。あれ、タナカさんの差し入れだったのか。徹夜しているのを隠していたのにさすがスルスルの実。
この船では私が徹夜をしたり根詰めて作業をすると皆は私を止めようとする。なかなか社畜時代の癖が抜けないので仕方がないとはいえ、流石に周囲に気を使わせすぎていると自覚しているが慣れない。
今回も同様に気まずそうにする私に対してテゾーロはため息をついた。
「徹夜はやめろと言っているだろう、元気そうに見せて無理しているんじゃないかとタナカとバカラが心配していたぞ」
あぁだから最近みんなが異様に業務をおいて荷物を持ってくれたり、きちんと眠れたか毎朝誰かに声をかけられるのか。
「く、癖でというか気づいたらそんな時間になっているというか」
「ほう?」
途端、黒い笑みを浮かべるテゾーロに嫌な予感がした『名前』はそそくさと離れようとするがそれを彼は許さない。
「──わ゛!?」
逃げようとしていた脚を金で固められバランスを崩した『名前』はそのままソファに倒れ込んだ。テゾーロは素知らぬ顔で珈琲を飲みつつ作業している。
軽く反動で跳ねた『名前』はなんとか腕の力で起き上がり平然と作業をするテゾーロに叱咤した。
「何するんですか!?」
「そうでもしないとお前は休まないだろう」
「お心遣いは感謝しますが!心臓に悪いんですよ!」
そう怒る私に対して彼はなおも仕分け作業と判子押しを続けている。なんて涼しげで美しい顔だろう、凄く腹が立つ!
「そう喚くな、むしろ感謝されてもいいくらいなんだがな」
「突然足元を固められて、作業放棄せざるを得なくなってるのに怒らないわけが無いでしょうが」
彼はもはや返事をすることすらバカバカしいのか、睨む私を ハッ、と笑い捨てた。
「(こ、このクソゴールド……!)──んお゛!?」
バカにすんなと言おうとしたが今度は両腕を金に固められ重力により『名前』はソファに突っ伏した。少し遠くからテゾーロがケラケラと笑う声が聞こえる。
「(ほんっと……最低野郎……!!)」
何とか顔だけでも彼に向けようとしたら今度は彼のほうから私に近づいていた。