第10章 砂と予兆
男はクロコダイルが本当に知りたいであろうことにはこたえず、曖昧に告げた。インペルダウンにて初めて会った際に協力をもちかけてきた彼らにその真意を聞いた時と同じ返しで。
「答えになってねェな、それでお前らの企みに乗るほど俺は従順じゃねェ」
呆れたと男を睨むクロコダイルに一切動揺せず男は答える
「それは勿論理解している、ただ我々もまだこの世界の住民である君に考えが理解されるとは思っていない──だからまず無理やりシャバに解き放ち彼女を殺すよう言ったのだ。我々が君を信用出来るとわかるために。」
「……ッチ」
ああ何度話しても分かり合えない、初めて会った時から何も言っている意味がわからない……分からなすぎて腹が立つ。そんな彼に対して男はクスクスと笑っていた。
「クク、不満かクロコダイル」
「不満も何も、俺は最初からお前らの話がひとつも理解出来ねェよ」
「!」
「お前らは最初にも言っていたが俺がアイツを、『名前』を殺すことと、麦わらの一味の没落がどう関わるんだ」
男はクロコダイルの問いを黙って聞いていた。
「『名前』は確かに麦わらの一味を慕っているのはわかった……が直接の関係はねェだろう?それに──俺がシャバに出る代償にあの金ピカ野郎とフラミンゴ野郎の女を殺るって時点で割に合わねぇな」
クロコダイルの脳裏に『名前』が大事そうにかき集めたスーツケースの中身である麦わらの一味についての切り抜きに手配書、そして彼女の屋上での発言が浮かぶ。
対する男はまたもクスクスと笑っている。
「小娘1人殺せばお前はあのインペルダウンからこのまま問題なく出られるんだ、むしろこちらが譲歩していると思ってもらいたいものだが」
「……ふざけるのもいい加減にしろ」
クロコダイルの眉間に一筋血管が浮いた。
「そもそもお前らが最初に無理やり訳の分からねェ能力で俺を外に出したんだ──お前らに従う謂れがねェ。俺と交渉するならもっと上手くやれ、下手くそ共。」
そういうとクロコダイルは男に向けて左手の鉤爪を向けた。ひとつも表情を変えることなく男は言葉を返す。
「そうか、ならば君には残念だが別の条件を提案しよう」
「ハッ、誰が聞くか──」
「もし無視すると言うのならば『名前』も──君の部下も命を落とすことになるな」
「!?」
男に向けられた鉤爪がピクリと揺れた。