第10章 砂と予兆
興奮で震えているためか彼の持つ銃の引き金がカチャ、カチャと微かにあたり音をたてていた。
「秘密犯罪会社の社長だったころの威勢はどうした!?ふふっ、我々にそんな弱者はいらない──裏切り者など尚更!ここでお前も死に、先に麦わらどもを待つがいい!」
「……!」
男が勢いのままクロコダイルを手にかけようとついに引き金をひきその場に銃声が鳴り響いた。
「ふ、ははは!我々に楯突くからこう……な…………?」
銃を構えていた男の手に血が滲み銃は滑り落ちる。その銃声が自分がひいたものではないと気づいたのはそう時間がかからなかった。
「……は?、血……わ、私から?」
意識すると同時に彼の手からぼたぼたと血がしたたる。興奮で震えていた手は今や気づくと終わると察した事象に対する恐怖の現れからの震えとなっていた。
カタカタと震えている彼に後ろから冷静な声がかけられる。
「いい加減にしろ」
「えっ」
間抜けな声を出し彼自身が現状を完全に把握したその瞬間、続けて眉間を数発撃たれ倒れ込んだ。
「……いっときの感情で我を忘れる者など更に不要だ、お前が頭を冷やして先で待っていろ」
今起きた一連の流れを見ていたクロコダイルはつい心の声が漏れた。
「は?」
──なんだ今のは?
いわゆる茶番劇を見せられたクロコダイルは地に伏す彼を撃った男に目を向ける。その男は手に持つ銃の口から煙が微かにでたままゆっくりとそれを下げた。
「嫌なものを見せてしまった、申し訳ない」
「……仲間割れか?」
「いいや、あんなもの仲間ではない」
へえ、と思った以上に冷徹な発言と行動に彼らに目を向ける。
改めて見ると男も他の周囲の奴らも考えてみれば先程まで共に行動していた一人ではないのかと疑いたくなるほど、一切動揺を感じられない。
となると此奴らが今、前触れもなくその意を向ける可能性だってある───
「ああ安心してくれ、我々は貴方を処分しようとは考えていない」
「!」
「だからその片手をおさめてくれないか?」
「……チッ」
気づかれていたのか、とクロコダイルは後ろに隠していた右手の中の小さな竜巻をといた。
「お前ら何考えてやがる」
そう聞くと被ったフードから見える男の口角が微かに上がっているのが見えた。
「最初からずっと計画の遂行のみ──…ただそれだけ」