第10章 砂と予兆
何故クロコダイルが戦闘態勢を解いたのかわからない男どもは困惑しつつも銃口を下げずに次の動きを観察していた。
そんな彼らとは対照的に落ち着いた様子のクロコダイルは彼らを見据えている。
「不本意だがここで自由を得ても何の意味もねェんだよ。クハハハハ、こうなるのもお前らならわかるんじゃねェか?」
「……どういう意味だ」
クロコダイルは彼らと初めて対面した監獄内での出来事と、加えてあることを思い出しつつ彼らに問いかけた。
「──お前らは知ってるんだろう?俺の処遇も、この世界がどう動くかも」
「!!」
図星、とまるきり顔に出ている彼らに思わず笑ってしまう。ああ俺は今こんなヤツらに恩を売ろうとされているのかと思うと情けなくなってしまう。
「お前らは最初にもさっきにも言っていたよな、今ここで俺はお前らに従わなければ俺は二度と監獄からでられねェと」
彼らのうちずっとこちらの応えに返答している一人が様子を伺いつつ頷き続けた
「……ああそうだ、我々はこの世の全てを知っている。それは最初に示したはずだろう」
「あァそうだな、お前らは初対面のはずの俺とダズの情報、そして俺しか知らねぇはずの麦わらとの戦いの詳細も気味悪ィぐらい全て言い当てた」
終始真顔だった男の口角が少し上がる。彼の何かが燃え上がったのか口調がだんだんと荒くなっていった。
「ふふ、そしてその麦わらの一味の行く末も言い当てただろう?我々は未来を知っていると示したはずだ!」
「……そうだな」
「お前らにとって麦わらの一味は恨みの対象のはず、我々と手を組むことで彼奴らを陥れ脱獄も叶う……!これ以上に何を望んでいる?何故それでも我々の条件をのまない?──何が不満だ!」
彼はそれまでの落ち着きを無くし ふ ふ 、と笑いながらクロコダイルに対してまくし立てていった。
「我々の提示した条件はただ一つ──何の能力も持たない、ただの人間、この船の幹部……『名前』の殺害だ!」
「……」
クロコダイルは彼がどんどん興奮するの対して終始無言を貫き通していた。呼吸に合わせて彼の咥えている葉巻の先が時折赤く点滅している。
何も返さないクロコダイルに対し苛立ったのか彼に向けていた銃口を更に前に突き出した。
「ふふっ、はははっ!怖気付いたか!?クロコダイル、落ちぶれたものだなあ!?はははっ」