第10章 砂と予兆
───場所は変わりグラン・テゾーロ船内、ダウンタウン。
いつも通り街と違い寂れた雰囲気を持つこの場は淀んだ空気の中、テゾーロによって浮浪者となった者が地を這いつくばっている。
その通りを悠々と歩く男が一人、葉巻の煙をふわりと漂わせていた。そんな彼の足元近くに浮浪者が幾人か恵みを求めて近づく。
「あ、ああ……」
「……」
「た、助け……くれ」
そう息絶え絶えに頼む者を無視し、避けるように彼はこのダウンタウンでももっと静かな外れを選び歩を進めた。
そうしてしばらく歩いた後にふと足を止め、振り返ると彼を囲うように男どもが突如として現れた。
彼らは皆、容易に闇に紛れられるような真っ暗なコートを羽織深くそのフードを被っている。初めて彼らにあった時と同じように。
「──どういうつもりだ、クロコダイル」
男の1人がそう問いかけると彼は喉を鳴らすように笑った。
「クク……どういうつもりも何も、俺はハナからお前らに従うとは言ってねェハズだ」
そう返して問いかけてきた男に完全に身体を向ける。クロコダイルはいつの間にか全方位を囲んでいた男どもそれぞれをなぞるように一度目を向けた。
「言ったはずだ、我々に従わなければ貴様はインペルダウンから出られずその生涯をそこで終えることになると。」
男は淡々と告げクロコダイルの返答を待っている。しかし対する彼には一切響いていない様子だった。
「……それがどうした、俺は何処ぞの名の知れねェお前らに運命を決められるほどヤワじゃねェよ。──それに」
片手に小さな砂混じりの竜巻を作り、相手にその意志を見せた。囲んでいる彼らが戦闘態勢をとるに伴いその勢いを増させる。
「俺がここでお前らを沈めりゃ、この世界の筋書きもお前らの目論見も全部台無しになることは予想出来なかったのか?」
竜巻が力を増幅させるにつれ風を切るような音が響く。周囲の木造物がミシミシと音を立て軋み、今にも壊れそうになっていた。
そうして囲う彼らの1人が何かを察したのを皮切りに全員がクロコダイルに向け銃口を向けたことで、クロコダイルの次の動きでその場がどう動くかが変わるだろう状況下となった。
「……んて」
「!」
「なんて簡単に動けりゃ、良かったんだがな」
クロコダイルはしばらく彼らを眺めた後にため息をつきその手の中にある竜巻を握りつぶし、おさめた。