第10章 砂と予兆
「直々に助けてやったというのに酷い言われようだな」
「何が助けてやったですか!」
助けてだなんて一言もいってない!と喚く『名前』に対しとうの彼は態度を一切変えずクスクスと笑っている。
「ハハハ、本気で嫌ならあの程度の抵抗はしないはずだ」
「──っ貴方との力量差では私は何しても意味無いでしょう!?」
違うな、とテゾーロは地に崩れ落ちたままの『名前』と目を合わせる為に少し屈む
「!」
「本当に嫌なら、いくらでもお前ならやる術があるだろう?」
『名前』は彼の言葉に全然意味がわからないと言いたげな顔のまま戸惑った。無視して彼は続ける。
「私は差があるからとすぐ諦めるような弱者をそばには置かない」
「弱者……私は違うんですか」
そう聞く彼女の瞳にえもいわれぬ感情がわきでて また何かをしてしまいそうになるがテゾーロはぐっと堪えて、それでいて自分自身を今度は嘲笑するかのような複雑な表情をしている。
「フフ、ああそうだ、でなければ──"嫉妬"などしない」
「え゛っ」
思ってもいなかった台詞に驚き凍ったかのように固まる『名前』、それを今度は面白い奴だなと思ったテゾーロはくしゃりと笑った。それはとても彼らしくない顔で。
──しかし"嫉妬"のフレーズにそれどころではない『名前』は気づかず、今度こそ身体を起こして帰ろうとする彼に聞き間違いじゃなかったよなと疑いながらも慌てて後ろをついていく。
「いや待ってください!今なんと!?」
「二度も言わん」
「えぇ……いや!でも──えぇ?!」
だって彼がそんなこと言うはずがないじゃないか、普通仲間であっても誰も心から信用していない彼がそんなこと思わない。設定を知っているばかりに素直に受け止められないのだ。
「何、考えてるんだ……」
だがそうとはいえ素直に嬉しいのも本当。それによって生じた顔の火照りにそっと手をあてがう。とくに身体は冷えていないのに手はとても冷たい。そしてそれに自覚した私に更に照れてしまいまた熱くなる。
そう思ってしまう自分がまた悔しいと思っていると彼女を待っていたテゾーロはいつまでも来ない『名前』に声をかけた。
「おい、いつまで私を待たせる気だ」
「!」
我に返り彼に目を向けるといつも通りのテゾーロ。何かに安堵した『名前』はそのまま彼の後を追いかけた。