第10章 砂と予兆
少しの返答も驚きも、待っての一言も言わせぬまま、彼は私の口にキスをした。
「……!?!??」
何回かに分けて角度を変えキスをし続けるテゾーロに更に困惑しされるがままになる。現状が把握できず頭が真っ白になっている『名前』にテゾーロは一度彼女から口を離した。
「おい、口を開けろ」
「──はあ!?」
何を言ってるんだコイツと思いつつも『名前』はハッとし片手を自身の口にあてがう。この隙に彼の思惑通りキスされるわけにはいかない。
もちろんテゾーロは無理やりその手を外せるのだが、それが面倒なのかため息をつき動きを止める。
「何だ、吸いたくないんだろう?だからこうして手伝ってやってるんだが」
「……ぜんっぜん理解出来ませんけど!?」
口に手をあてがいつつ喋るので若干こもりがちの彼女の怒声。その様子を怠そうにしつつも本心ではその姿を見たかったのか、彼から微かに笑みが零れていた。
「な、何笑って」
「……いや?にしても色気が無いな」
「うるっさ──ひいっ!?」
痺れを切らしたテゾーロは『名前』の口にあてがう手に優しくキスをする。それに驚きつつ割とマジめに彼の行動に引いてしまい手の力が緩んでしまった。
その隙を突いてテゾーロは彼女の手を掴み彼の手中に収め、驚いて開いた彼女の口に深いキスをする。
「……ん、ぐぅ……!!」
それによってさっきまでの触れるだけのキスの時に香った香りが、今まさに口内に広がる執拗い甘みが煙草の味だと気づく。
脳が溶けてぐちゃぐちゃになってしまいそうな暴力的な甘みが永続的にも思えるほど襲いかかる。
しかしされてもなお態度と口内と行動で反抗していた彼女は目を瞑りキスをする彼を睨むとちょうど目が合い、テゾーロがそれに対し ふ、と笑うのを見て何故か大きく脈打った自分に驚いていた。
──それが恐れか何かはわからないまま、『名前』は目を固くつぶりそれが終わるのをひたすらに待った。
ひとしきりして甘みも慣れたころ、やっとテゾーロは『名前』から離れ、屈んでいた身体を起こした。
上手く息ができていなかった『名前』は解放されたと同時に息を吸いこみ、力なくテゾーロを押しのける。息も絶え絶えに崩れ落ちた。
「はぁっ、はぁ……っ、なんでいちいち こんな、ことを」
そういいキッと睨むと彼はいつも通り私を嘲笑った。