第10章 砂と予兆
なんの事だかさっぱりわからない、と『名前』はぎこちない笑顔で固まる。淡々とテゾーロは喋り続けた。
「お前の過去の境遇は十分に察するが……そろそろ自分の意思を尊重してもいいんじゃないか」
「意思、とは?」
彼がふざけてはいないとわかり真剣に話を聞く体制に入る。にテゾーロの持つ煙草の火先がジジジ、と徐々に進んでいった。
「お前がまだその企業相手にとって格下ならまだしも、この船の立ち位置と関係性を考えれば明らかに上だ。それなのに言いなりになるのか?」
彼の言葉が正直図星で胸がちくりと痛む。確かに意思がないと言えばそうなるが──実力の無い私がこうなるのは当然だし、それを許される環境にいなさ過ぎたからわからない。
「私にはそんな力がありません。バカラさんとかカリーナのような」
「……」
「それこそ私がどうなったとしても貴方は特に何も影響ないでしょう」
彼から目を逸らして少し俯きがちに答えるとテゾーロは鼻で笑った。続けてそれに肯定されるのかと思いきや私にとって意外な返答がされた。
「ハハ、侮るな」
「!」
「この船と私の権威がどれだけのものか理解しているか?──私はギルド・テゾーロ──この国の王だ。」
「……王」
そうだ、と少し自慢げに言う彼はなんだか輝かしくて、その強さに羨ましく感じた。少し圧倒された『名前』はぽつりと彼の言葉を繰り返す
「海軍も海賊にも簡単に打ち壊せない、いや掌握するのがこの国だ──その王の幹部と自覚しろ、そしてもう少し誇りをもて」
そういい彼は風で少し乱れて顔にかかった私の髪をそっとなおす。
ふと視界のほとんどを占める彼の姿がこの場から見えた金色に輝く街のどれよりも綺麗に見えた。
「貴方は私が傷ついたとき、動いてくださると?」
「当然だ」
即座に答えるテゾーロに嬉しいような、でも少し複雑な気持ちになり小さく笑う
「ふ、それじゃあまるで虎の威を借る狐じゃないですか」
「それでいいだろう」
「え?」
一度私から顔を背けて手に持っていた煙草を数回吸う。彼の答えを待っていると彼の口の端が少し上がったのが見えてすぐこちらに向き直った。
「いくらでも私の──いや皆の威を使えばいい、お前の強さはそこに活きているからな」
「──はい?……!?」
くい、と彼は私の顎に手を添えて上を向かせ傾けた