第10章 砂と予兆
「!」
そういいクロコダイルが顎で『名前』を指すとテゾーロはハッと我に返ったかのような素振りで彼女のほうに振り向く。
感情に身を任せて飛び出た為に気づいていなかったが彼女の顔や服に傷や汚れがあった。
当の本人は煙草をなおも咥えたままで、しかもマヌケ顔のまま彼が振り返った理由がわからず首を傾げている。
「……はぁ」
「えっ」
テゾーロは割と真剣な表情だったものの本人のその様子に呆れて目を細めため息をつき向き直った。
『名前』は何故ため息をつかれたのかわからず困惑している。
「本当に襲われていたのかアイツは」
「えっ」
結構満身創痍でしたけど!?
と言いかけたがそのテゾーロ越しにいるクロコダイルが私を見てケラケラと笑っている。
「クハハハ!さっきまでいたぶられていたとは思えねェほど余裕そうだな?」
「なっ……──何が面白ッ──ゲッホゲッホ!?け、むりが」
言い返そうとしたもののずっと咥えていた煙草を忘れて一気に吸ってしまった為か思い切り流れ込んだ煙にむせてしまった。
そうしてずっとむせ続ける彼女に更にクロコダイルは笑い続ける。
彼女の様子を呆れてテゾーロは遠目から見続け平気そうだと判断した彼はクロコダイルに向き直った。
「……どこかで転けただけではなく?」
『名前』はいつもならそれに反論していたものの、煙でそれ所ではなくただただむせ続けている。そうして彼女を完全に無視し本格的に2人の対話が始まった。
「ああ……だが今回は"それだけで済んだ"と考えた方がいいんじゃねェか」
「!」
ピクリとクロコダイルの発言に反応しまたもピリついた空気が流れかける。クロコダイルは威嚇するテゾーロに対しニヤニヤと楽しそうにしている。
「俺も良くは知らねェが──お前が思う以上にそいつは面倒事を抱えてるだろうな……」
そういいクロコダイルは深く煙を吐き夜景に視線を落とした。彼の煙がふわりと空の彼方へ溶けていく。
何かを知っているのではと察した彼にテゾーロが懐疑的な目を向け問いかけた
「何を知っている?」
「……」
沈黙を返しクロコダイルはふとまた『名前』に目を向けた。咳き込んでいたのは収まったようだが苦しそうに喉に手をあて呻いている。
完全にダウンしている『名前』に対しまたも笑みが零れた。