第10章 砂と予兆
そしてちょうど風が過ぎ去り2人を覆っていた彼のコートが元に戻る。
クロコダイルは体を起こして、依然固まったままの彼女に対して今度は馬鹿にするように ふ、 と笑った。
──次の瞬間、彼の右半身ほとんどが突然砂と化して弾け飛んだ。
「んぅ゛!?」
流石に驚いた『名前』はそのまま後ろに大きく飛ぶように下がる。すると今度は目の前に見慣れたピンク色のスーツを纏う、私の主人の背中が現れた。
「(───テゾーロ!?)」
「……ククク、やっと来たか!」
彼の背中越しから見える右半身が弾け飛び徐々に砂が戻りつつあるクロコダイルは更に笑みを浮かべていた。
そんな彼に対して無言でテゾーロは片腕丸ごと金を纏い大きく振りかぶって打ち付けた。
「!?」
「……ちっ」
その腕には覇気もあることを瞬時に察したクロコダイルは咄嗟に左手の鉤爪で対抗しその攻撃を止めた。攻撃を止められたテゾーロは舌打ちしつつも引き下がらず、それどころかガチガチと互いの金色の腕が震え音を立てている。
「おいおい……客人をもてなすにしては荒すぎねェか?」
「ハッ脱獄囚が何を言う、今ここで海軍に引き渡してもいいくらいだが」
「クハハハハ、言ってろ黄金野郎!」
クロコダイルはテゾーロの腕を押し切りその衝撃で後ろに下がる。そして2人とも互いの出方を観察し沈黙が流れた。
そんな中『名前』はその光景に圧倒されパチクリと瞬きしている。口に咥えっばなしの煙草がふかされた為かチリチリと火がほのかに燃えた。
その場の空気がピリついていたが次第に今戦ったところでそれほど意味も得もしないと両者気づき始め、 戦闘態勢を解き落ち着きを取り戻す。先に口を開いたのはテゾーロのほうだった。
「お前のせいで散々なめにあった……"あれ"は一体何だ」
「ククク、そのうち嫌でもわかる」
意味ありげな会話をする2人を少し離れた場所から見ている『名前』は一体何の話をしているのだろうと首を傾げた。
「あんな素性が知れない奴らとお前が手を組むようには見えんが、まさか初対面とは言わないだろう?」
「さァな、俺には覚えがねェ」
問いかけに対して曖昧に返事をし葉巻を吸うクロコダイル。そうして次第に戻りつつあった右半身が完全に構築された。
「ククク、少しくらい礼はねェのか?今頃何処ぞの海賊に売られていたと思うが」