第10章 砂と予兆
そう聞き眉間のシワがより一層深くなる彼に少し怯えつつ、『名前』は一度深呼吸をした
「(クロコダイルが苦しむほどの煙草……私も吸わなきゃ)」
煙草に抵抗があってこのチャンスを利用し彼から試供品の感想を聞こうとしたが命の恩人を苦しめるのは不本意。
とはいえ彼を逃がしてはいけないし、そうするにしろ逃げ道を用意できるのは本当に最短明後日ごろになる。今の私ができるのは同じく苦しんで誠意を見せる他ない。
自身が無力だと理解した上で『名前』は意を決して煙草を一本取り出した。
その様子に お、 となんとか落ち着いたクロコダイルは興味深そうに『名前』がしようとすることに対して見届ける姿勢になる。
「てっきり吸わねェと思っていたが」
「いえ、初めてです。これって咥えるのこっちですよね?」
「!、罪滅ぼしか」
色がついているだろう、そうそれだ と指示してもらい恐る恐る手に持つ煙草に火をつけようとするがどこか緊張しているのか思い通りにできない。
ライターの火は保てず直ぐに消えてしまうし、口に咥えると揺れてしまい手こずってしまう。
その様子を下手くそすぎるなあと眺めていたクロコダイルはふとある場所に視線を向け、小さく笑みを浮かべた。
「その様子じゃあ1年はかかるだろうな」
「んあ、はっへ!(だっ、だって!)」
口から煙草をとろうとする『名前』の横顔にそっと彼は右手を添え静止させた
「そう吠えるな……──じっとしてろ」
「へ、──」
彼がそういい『名前』の顔を傾けた瞬間、急に強い風が吹きつけ、ばさりと彼のコートが2人を隠す。
コートで瞬間彼の咥える葉巻についた火がほんのりと2人を照らしている状態になり、『名前』の視界はクロコダイルに包囲された。
『名前』は彼の動きに驚きそのままされるがままとなる。クロコダイルがそっと顔を近づけたことで彼の葉巻の先と『名前』の咥える煙草の先が繋がった。
「……少し息吸え」
こくこくと頷きつつそっと咥えたまま息を少しだけ吸うとジジ、と火が移り繋がりを得る。
口内に強い葉巻の香りとほのかに香る彼自身の匂いに『名前』はただただ目を見開いたまま空気感にクラクラした。
火が十分に点いたことを確認しゆっくりとクロコダイルは離れ、ふと見つめられていたことに気づき口角を上げる。