第10章 砂と予兆
戸惑う『名前』をみてクロコダイルはクスクスと嘲笑した
「ククク、お前が吸えと命令したんだろう。火くらいくれたっていいんじゃねェか?」
「!は、はい」
彼にそう言われ初めて気づいた『名前』は慌ててジッポーライターを取り出し目の前にある彼が咥え差し出す煙草にそっと火をつけた。
商談相手や施設利用者の煙草に火をつけることは日常茶飯事で慣れているはずなのに、クロコダイル相手だと考えると緊張して手元が若干震えてしまう。
「下手だなぁ」
「っ──うるさい」
何とか火がついた流れで彼が右手に持つ葉巻を預かった。クロコダイルはゆっくりと姿勢をなおしてその煙草を味わう。その様子を『名前』はまたも緊張しつつ見つめた。
……しばらくの沈黙のあとクロコダイルはその煙草を口から外し手に取り煙を吐いた
──────あと直ぐにその煙草を握りつぶした。
「…………反吐が出るほど甘ェ!!!」
「(や、やらかしたーーー!!!)」
その煙草1本で軽く嘔吐き咳をするクロコダイルだが、彼の身長が高すぎてタダの煙草程度の煙は簡単に風に流れてしまう。
そのため『名前』は彼がどれだけ甘いと苦しんだのか匂いを嗅げず一切わからなかった。
ゔえ、と小さく舌をだしつつ『名前』から奪うように葉巻を取り即座に吸い直した。本当に口に合わなかったのだろう。何度も葉巻を吸って口直しをするも未だ咳をしている。
故に吸うスパンが早めな彼に『名前』は冷や汗をダラダラにしながらわたわたと慌てている。凄く申し訳ないことをしてしまった。
「すみませんでした!まさかそんなに口に合わないと思わなくって……!」
「っぐ、げほっ!気持ち悪ィ……何いれたらこうなるんだ……!!」
煙草一本の甘さに簡単にやられてしまう元七武海の姿はレアすぎて正直しばらく眺めていたい……なんて余裕がある時なら彼女はそう思うが完全に『名前』は罪悪感にやられている。
何せ彼女にとっては一度殺されかけたにせよ、命の恩人なのだから。
「……とんだ仇を返された」
さっきまでのなんでも聞くと言った彼と真逆の、不機嫌で不愉快そうな彼に『名前』はすこぶる申し訳ないと感じていた。
「さ、さすがに……何もしないってわけにはいかない……」
「あ?」