第10章 砂と予兆
「あー……こっちの話だ、気にするな」
「!!そう、なんですか……?」
面倒くさそうにしつつも彼女から離れて屋上の端、柵の近くに寄ってから火をつける。
一度無いとわかり苛立っていた葉巻を味わうとバカみたいに美味いのが余計に癪に障った。
チラリと後ろを見ると少し緊張し強ばった顔の『名前』。その様子にいてもたってもいられず、クロコダイルは目を逸らしてその景色を見つつ話し始めた。
「……一つ、お前の言うことを聞いてやる」
「え?」
「葉巻の礼だ。言っておくが俺はお前に借りを作りたくねェだけだからな───勘違いするなよ」
「借り……」
ふ、と笑いつつ彼は葉巻を一度持ち振り返る
「クハハハハ……お前を殺そうとした詫びもいれてやろう。どうだ、俺を奴隷にでもするか?──それかお前を襲った奴らを皆殺しにでもするか?」
「……」
───さあどうしたい?と悪そうに笑う彼の目が景色の光に照らされ宝石のように見えた。
ううん、と悩む彼女の答えをニヤニヤしながら彼は待つ。その返答で彼女の本性を探ろうとでもしているかのように。
『名前』は数十秒ほど悩んだ末に あ! と何かを思い出したのかそのリターンを思いついた。
「───じゃあコレ、吸って貰えません?」
「……は?」
想定外と顔にまんま出ている彼をガン無視して離れていた『名前』がにっこりと笑顔で近づく
『名前』は彼の横に立ち 胸ポケットから商談で押し付けられ……いや貰った女性用煙草を取り出した。
「……なんだそれは」
「女性向け煙草の試作品──だそうです。今日は貴方と会う前の商談で貰ったんですけれど私、吸わなくて」
そういいつつビニールをめくりパカリと箱を開けて1本出してみる。彼の咥えている葉巻と比べると幾分も細い。
「感想を次回会うまでにとは言われたけれど私じゃ何とも……ってことで貴方の感想きかせてください!」
「……」
ずいっと『名前』が彼に差し出すとしばらくその煙草を眺めた後、彼は右手で葉巻を持ちつつそのまま彼女から煙草を受け取った。
「随分と細ェな……中身入ってるのか?」
「貴方の葉巻が太すぎるだけだと思うんですけれど」
「ハ、言えてるな」
クロコダイルは受け取ったその煙草を咥えた後、屈んで『名前』に突き出した。
「えっ」