第10章 砂と予兆
えぇ……とまるでクロコダイルのほうがおかしいと言いたげな『名前』の目に彼の眉間に血管が浮きでた
「──その目で見るんじゃねェ」
「いや、だって__」
「……殺したくなるから二度とその目で見るな!」
割とマジめに怒る彼に不服そうにしつつも『名前』は大人しく彼から身を引いた。
いつの間にかもう吸い尽きていた葉巻を落として踏みつける。
そして自発的に距離をとった『名前』を再度睨み付けつつ、彼女に聞こえないくらいの声で呟いた。
「ただでさえ3000万ベリーの賞金に人のために死ねるバカさ──その癖同じ台詞を言いやがって……」
対する『名前』はそんなことを言われているとはつゆ知らず、なんなら機嫌悪そうだし情緒不安定だなコイツと思いつつ彼を静観していた。
ふつふつと湧いてくる苛立ちを抑えるためにクロコダイルは新たな葉巻に火をつけようと胸元を探る──が 葉巻がない。
「……あ?」
どう探っても違う場所に手を入れてもない──どこにもない。どうやら先程の戦闘で落としてしまったのだろう。
一度ないとわかると余計に欲しくなる──異常なまでにニコチンを欲する本能に彼の眉間に更に血管が浮き出た。
無意味に今いるホテルから水分を奪って崩壊させてやろうかと思った矢先、あの と『名前』に声をかけられる。
今話しかけんじゃねェ!と言いかけたが彼女の手には自分が落としたと思われる葉巻のハコそのものがあった。
「お前、それ……」
「先程私の荷物のために貴方が時間を作ってくださった時に拾いました──探されているのってこれですか?」
はい、と渡された葉巻が異様に手に馴染む。
……喉から手が出そうになるほど求めていたものがこうも簡単に彼女から渡されるとは思わず、ぽかんとしたまま固まってしまった。
その様子に間違えたのかと思い『名前』はひとり焦っている
「え、あっ違いました?もしかして拘りあってこれじゃないとか──」
「……あぁいや、これでいい」
「!ならよかった、ではお好きにどうぞ」
そういい少し間を空けて横に並ぶ『名前』、なぜ俺はこんなただの女に翻弄されているのだろう。
「……嫌になるな」
「えっ」
クロコダイルの独り言に『名前』はまたもや1人で焦ることとなった。