第10章 砂と予兆
先程ルフィがやったことを実際にするために鉤爪にあてて血を出そうとした右手を見つめる
「でも私は例え力があっても貴方を倒したいんじゃない、私の目的は───それだけの覚悟があると伝えたいだけですから」
見つめていた右手を握りしめて彼の目をみる。嫌な記憶を思い出さされたクロコダイルは『名前』を睨んだ。
「お前が覚悟を示したところで、俺がお前を殺さないことにはならねェだろ!……クク、答えになってねェな」
まだ苦しそうではあるが余裕そうな表情をしてみせるクロコダイルに依然変わらぬ態度で『名前』は返した
「勘違いされてるようですが私は貴方を倒したくも殺したくもないんです、寧ろ逆ですよ──クロコダイル」
「!」
……『名前』の瞳が煌めき、クロコダイルの目を貫いた。
「言ったはずです、私は貴方の信用を得たいと。
──私は、例え私が死ぬことになってもいいとただ覚悟を示したいだけですよ。」
「……!!!」
そしてしばらく、二人の間に沈黙が続いた。少し強い風が吹き『名前』の髪が、クロコダイルのコートがはためく。彼の葉巻の先に溜まっていた灰がその瞬間消え飛んだ。
クロコダイルは目を見開いたまま彼女を見つめる。煌めいた気がした瞳が彼を捕らえて離さない。
その瞳の強さに息が詰まるような思いをしながらも彼は『名前』に問いかけた。
「……それは俺がお前を殺そうとしても……か」
「ええ、逃げることが貴方を生かす方法ならば私は逃げ続けます」
「……お前を殺すことが俺を生かす方法なら?」
ぴくり、と反応し少し戸惑ったものの『名前』は微笑んで答える
「それしかないなら……死にましょう」
「……」
クロコダイルはじっと彼女を見据えた後、ため息をついて目を逸らした。
「……"人のために死ねるクチ"にしても、ここまでくるとどうしようもねェな」
「つまり?」
答えを急かしてくる『名前』にまた大きくため息をついた
「あ゛ぁ────気味が悪りィが……ここまでされると何も言えねェ、お前を信用してやろう。」
「!」
途端、わかりやすく嬉しそうな表情になる『名前』にまたもクロコダイルはどうしようもない奴だと諦めた。
「……こんな奴に俺が負かされるとはな」
「?、何か言いましたか」
「ッチ、調子に乗るんじゃねェ」