第10章 砂と予兆
「どうした、何も言えねェか?」
返答しない私に意地悪く問いかける彼を見て本当にこれでいいのかと少し迷っていたものの私は覚悟を決めた。
「私はともかく──貴方に信用して貰えたらいいんですよね」
「あ?」
そういう彼女に対して何が言いたいのかと眉間に皺を寄せ警戒するクロコダイル。
ふぅ……と呼吸を整え『名前』は片手を鉤爪の先に手をあてがい、そのまま───
「──!?」
「あっ」
あと少しで彼女が行動を起こすといったところでクロコダイルは即座に彼女から鉤爪を離した。
焦っている彼を置いて、『名前』は首にかけられていた鉤爪が相手に怪我を与えることなく外されたことに驚いている。
対するクロコダイルは1度自身の鉤爪をみてそれに血がついていないことを確認し、彼女に目を向けた。
「お前──今何しようとした!?」
「……大切な人の真似です」
「はあ?!」
訳が分からんと言いたげな顔、まあ彼からしたらそうだろうなと『名前』はそのまま続ける。
「──貴方の弱点は一般的には水、それくらいなら情報を集めれば知ることができる。けれど水を使った抵抗をしたところで貴方には簡単に防がれます。──ミス・オールサンデーがそうだったでしょう?」
「!お前どこでそれを……」
「彼女はハナハナの実を持っていてそれでしたから私がやったところでもっと悲惨でしょうね、でも───」
『名前』はクロコダイルの狼狽える姿を見つめつつ、そのまま続けた。
「──"血でも砂は固まるだろ"……これで貴方に一矢報いることは出来るでしょう、サー・クロコダイル。」
「───!!?」
彼女のその一言がどれだけ彼にとって忌々しい出来事を思い出させただろう。彼の中にあの日の出来事すべてが流れ込んだ。
ワンピース、アラバスタ編───彼が麦わらの一味に敗れたあの出来事すべてを。
「っう、あ……!!」
膨大な記憶が彼の中に流れ込んだ彼は右手で頭を抑えつつ息を切らし苦しむ。
……彼はあの日、彼にとっての一大計画が一つも予想していなかった海賊にすべて台無しにされた。
そんな彼にとって苦い思い出のすべてを彼女は知っているのだと彼に理解させた一言だった。
苦しむ彼を他所に『名前』は話を続ける。
「……もっとも、そうしたところで貴方を倒すことはできませんけれどね」