第10章 砂と予兆
その攻撃の勢いに驚いている『名前』をクロコダイルは腕から離した。振り返ると彼は次の一手のためにか右手にまた小さな竜巻を発生させていた。
「ここにいる限りまだ奴らは来る、今のうちに"それ"を片付けろ。」
そう言い顎を使って指し示したのは連中どもに奪われてばら撒かれた新聞とジュラルミンケース。
彼は多くを語ってはいないが多分次の追っ手が来るまでに逃げようと提案してくれているのだろう。だが彼は散らばっているこれらが私にとって大事なものだと察して気遣ってくれたようだ。
「……! 恩に着ます」
その気遣いが嬉しくて表情に出てしまったが、気にせず『名前』はすぐそれらをかき集めてケースに詰め込み彼に向き直る。
すると追っ手の声が聴こえ、本当に来ているんだと目を向けようとした途端、今度は彼は砂嵐(サーブルス)をおこない来ようとしている彼らを吹き飛ばした。
その様子に呆気にとられている私をクロコダイルは片腕で抱える。
「!?」
「これだけやればテゾーロの奴も気づく……いくぞ」
そうして彼は下半身を砂化させ空を飛びその場を後にする。抱えられた『名前』はクロコダイルによっていとも容易くボロボロになったダウンタウンの一部を見下ろしつつ、大人しく彼に身を預けた。
___
……そうして、『名前』とクロコダイルは最終的に人気も少なくなおかつ船内の繁華街内にある場所──互いに初めて出会ったあのホテルの屋上に辿り着いた。
彼は砂化をとき『名前』を下ろす。来た時よりも風が落ち着いていたせいか、周辺に砂が落ちた。
あぁだから屋上に相応しくない砂が溜まっていたのか、と納得しつつ『名前』は横を向き彼に礼を言った。
「ありがとうごさいます、貴方のおかげで助かりました」
「……甘いな」
「?」
なんの事かと聞こうとしたが す、と彼の鉤爪が気付かぬうちに『名前』の首元を捕らえていた。
「何も俺がお前を殺さねェとは言ってないだろう」
「……」
黙って彼の目を見ているとゆっくりと鉤爪が首にあてがわられる。
「このまま俺が腕を引くだけでお前は簡単に死ぬ、こうされてもお前はまだ俺を信用するか?」
「信用……」
チラリと金色の鉤爪を見るとそこに映るのは歪んだ私の顔。彼の言葉を脳内で反復しながらもう一度彼に目を合わせた。