第10章 砂と予兆
「……あぁ」
目の前には新たな同じような連中がこちらに向かってきているのに気づいた。この様子でも無謀に来るとは珍しい。
「「「ウオオオオーッッッ!!!」」」
「ッチ、次から次へと湧き出てきやがる」
「……」
クロコダイルはめんどくさそうに右手の中に砂を混じえた竜巻を起こす。砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)でもする気だろうか。
ふとそれらに目を向けていると突然、近くにいたのされていた男の一人が身体を起こしクロコダイルには適わないと理解したのか短刀を持ち『名前』に襲いかかろうとしてきていた。
遠くの相手に気を取られていたクロコダイルは『名前』を守るのに遅れ、彼女への攻撃を許してしまう───と思った次の瞬間
ぱきんっ
破裂音、もとい骨は骨でも軟骨が折れる音がその場に響く。『名前』が襲いかかろうとした男の鼻めがけて拳を振り下ろし鼻骨を折った音だった。
「は……え?」
何が起きたのかわからず戸惑い、彼のもつ短刀はすんでのところで『名前』の目の前に止まる。
そのまま『名前』は動きが止まった彼の金的を蹴りあげ、ボロボロになった身体には致命的なダメージだった彼はそのまま地に伏した。
「あ゛……か……は……」
その一連の流れをみていたクロコダイルは驚き、遠くから来ている連中を差し置いてただただ目を奪われた。
「お前、そんなこともできたのか」
───彼女自体は能力としては普通の人間だが、幼少期からの虐待により暴力に慣れてしまったせいか、それに対しての恐怖心が上手く働かなくなってしまっている。
そのため先程の行動が出来たのだが、本来なら喧嘩慣れなどで身につくものである。そうではないと分かっているクロコダイルには興味深いものとなって目に映った。
「……痛みで頭が冷えただけです」
だが依然腕の中の彼女は地に伏した男を眺めつつ、ただそう応える。暴力に慣れている彼女の生き様を察してその可哀想さに思わず笑みがこぼれた。
「クク、クハハハ!」
「……何が面白いんです、悪趣味ですね」
自身のいない所で何かが起ころうとしていることにクロコダイルはただただ面白いと感じていた。
「ククク……悪ぃな」
「?──っわ!?」
クロコダイルはもう近くに来ていた追っ手を予想通り、砂漠の宝刀で打ちのめした。