第10章 砂と予兆
もう完全に無気力になろうと『名前』は項垂れたその時、何かに引き寄せられる感覚と頬にあたるフワリとした感触。
「!」
何かに抱かれるに近い感覚と同時に、男の悲鳴が耳をつんざき私の目を覚ました。
「───随分と強がるじゃねェか、雑魚ども」
「ぎゃあああああ!?!?」
顔を上げるとそこにはクロコダイルの顔……何故ここに?
野郎どもを嘲るように笑みを浮かべ、彼はスナスナの実の能力を用いて右手で掴んだ男をカラカラにする。どんどんとミイラ化していく姿に周囲は阿鼻叫喚となった。
そうして『名前』は今自分が彼の左腕の中にいることを把握し、彼が本当に助けに来てくれていた事実を理解したのである。
「クロコダイル……様」
「やめろ、俺はお前の主人じゃねェ」
そういいつつ抱く彼の腕はとても優しい。なんなら彼の厚い筋肉がクッションのようだ──傷ついた身体に心地よい。
「しかし奴ら何考えてやがる、話がまるで合わねェ」
「ゆ、許してくれ!──ぎゃあああ!?」
クロコダイルはぶつくさと独り言をいいつつ片腕で私を支えているのに簡単に彼らをのしていく。そうして『名前』が苦労した彼らは一人を残して戦闘不能となってしまった。
「ハァ……弱すぎて手慣らしにもならねェ」
「ヒッ!もうしない、悪かった!嫌だ、死にたくない!」
どうやらクロコダイルは久しぶりの戦闘に少し思い馳せていたようだが呆気なく散る相手にガッカリしているようだ……彼のその力量に『名前』はただただ尊敬する他なかった。
一人残した腰が抜け立てなくなった男を相手にクロコダイルは見下げて問いただす。
「おい、コイツを何処で知った?」
「お、俺たちは違う海賊に交渉されたんだ!『名前』を捕まえる代わりにこの船からの脱出と金を条件に!」
「……アイツらから直接ってわけではねェようだな」
「えっ?」
彼がそう聞き返したのと同時にクロコダイルは思い切り彼の頭を踏みつける。そのまま彼が起き上がることは無かった。
もう終わったのだろうかと地に伏した彼を眺めつつ『名前』はクロコダイルに聞いてみる
「……何故貴方がここに」
「勘違いするな、俺がお前に手を貸してやる気になっただけだ」
「それ、答えになってませんよね?」
そう聞き返すが返事はない。なんでだろうと彼女はふと目線をあげてみる。