第10章 砂と予兆
『名前』の目の前で散らばる新聞紙が彼らの軌跡を思い起こさせる。たまたま彼女の近くにアラバスタの記事が落ちた。
「あ……(『クロコダイル敗れる』……懐かしい)」
だがそんなことはお構い無しの連中どもは金目のものでは無いと分かった途端舌打ちをし、記事を蹴りあげた。
「チッ、なんだよただの新聞じゃねェか!」
「期待させやがって!」
「!……──やめろ!!」
「あァ?」
『名前』にとっては大切なものでもそれ等はこの世界では紙切れでしかない。紙幣だと期待した彼らは心底ガッカリしたのか機嫌悪そうに『名前』のほうに振り向いた。
「お前さ、さっきからギャーギャーうるせェけど何?」
「蹴るなって言ってんだよ!……アンタらはそれに触っていい人間じゃない……っ!」
「──ッ偉ぶるのもいい加減にしろ!」
苛立ちが高まっている彼らは容赦無しに彼女の腹部をまたも蹴りあげる。鳩尾に入った『名前』は今度は喉奥から掠れたような声が出た。
「!!かはっ……」
蹴った本人の男は痛がる彼女を見て満足そうにした。
「あーあー可哀想に、大人しくしてりゃこんなに痛がらなくて良かったのになあ」
「……はっ……はっ……」
一人の男が彼女の髪の毛を掴みあげる
「いやあこんなに弱いのに幹部まで上り詰めて、ご苦労なこったなあ」
「……っ」
「お前がどんな手を使ったかは知らねェが所詮はただの人間、例え幹部でも"弱い"お前は簡単に負けちまうんだよ」
「!」
彼の 弱い のその一言がまだ強くあろうとした『名前』の心を簡単に刺した。──父親がまた、脳裏に浮かぶ。同じことを昔に何度も言われた覚えがあるからだろう。
そうだ、私はもうこんなめに遭わないと努力したつもりで できることをしたつもりだったけれど……弱いんだ。
きちんと自覚したくなかったその言葉に『名前』の中にあった抵抗の気力は一気に消え失せてしまった。
「……」
「!あはは、やっとこいつ諦めたぞ」
「じゃあ早いとこ渡しちまおうぜ、海賊が欲しがってたろ?」
「何処の海賊かは俺も知らねェが……こいつを売るだけで山分けで1000万ベリー貰えるんだからな」
「それに俺たちを逃がしてくれるんだからな!やっとシャバに出られる!」
こんな知らない彼らに私は命を奪われてしまうのか……私は……ここまでやったのに……