第10章 砂と予兆
そうして『名前』は走り続け、ただこのままでは私が力尽きると察したため身を隠す場所を求めた。
だが『青年』と出会った、所謂船の端はダウンタウンを通り過ぎた先の場所。鬱蒼とした空間は寧ろ彼らにとって有利である。
それにダウンタウンは船内のどの場所においても暗に暴力が公認されたような場所であり、街に溢れている電伝虫もほとんどない。
船内の監視部門に見つけてもらうには多くの時間を要するだろう
……正直、『名前』はあまりに不利な状況だ。
その上身体、悪魔の実ともに能力者ではない彼女はついに足がもつれて倒れてしまった。
「っ!?」
立ち上がろうとするが時すでに遅し、あっという間に彼女はもう追っ手に囲まれてしまった。
「はぁ……はぁ……───随分手こずらせやがって!」
「うぐっ!」
彼女より体力はあると言えど追いかけるのに疲れた追っ手の1人が苛立ちを彼女にぶつける。思い切り腹を蹴られた『名前』は呻き声をあげた。
「おいやめろ!生け捕りだって決まりだろ!?」
「あんまりやると俺たちが逆にやられちまう!」
「……わかったよ、クソッ」
『名前』は蹴られた腹部を手で押さえつつ彼らに目を向け、ふと脳裏に自分の本当の父親の姿がよぎる。
幼少期に虐待を受けていた『名前』はよく暴力を振られた時、事が済むのを待つしかないと考えていた為こういった場合思考を放棄しがちになる。──その経験で今まで彼女はやっていけた部分も大きいが。
ああまた耐えなければいけないのか、と『名前』は無意識に思考を放棄しようとしていた。
「そういえばコレ、中身なんだろうな?」
「……!」
しかし、連中の一人が『名前』の持っていたジュラルミンケースに興味を示したのをきっかけに正気に戻る。中身は『名前』にとって大切な──大好きな麦わらの一味についての新聞記事。
彼女にとってそれを適当に扱わられるのは許せず、いつもなら諦めの姿勢をとる『名前』が無駄だと理解しつつも即座に抵抗した。
「触るな!」
「なんだそんなに大切なモンなのかよ」
「開けてみようぜ金目のモノかもしれねェ」
『名前』の抵抗虚しくあっさりと開けられてしまう。連中がケースを開けた途端、中から大量の新聞が飛び出した。
「うわぁ!?」