第10章 砂と予兆
「───うるせェ!」
「?!」
『名前』に反抗して男どもの一人から石か何かを投げられる。奇跡的に『名前』はそれを避けた。
「……っこの船で暴れるとよくないのはアンタらが1番わかっているんじゃないの」
「そんなモンわかってんだよ!だがもう俺たちは耐えられねェ……すぐにでも金が必要なんだ!」
いまいち彼らの目的がわからないが、大方ギャンブルに大敗させられた賊か何かだろうか?
追い剥ぎ目的だろうとして……だがそうなると私を狙っている理由がわからない。
「残念だけど今の私には救えるだけのお金はない。私の持ち物や服を剥いだところで、精々明日のご飯が豪華になるぐらいじゃないかな。」
「!」
そういうと彼らは一斉に大笑いしだした……何かおかしい。
「ケケッお前、知らねェみたいだな!」
「!?」
そう言いつつゆっくりと近づく彼らを『名前』は警戒する。割と本当にマズイかもしれない。
「いいや、わからねェほうが幸せだと思うぜ……ヘヘ、安心しろよ殺しはしねェさ」
「ただ少し大人しくしてりゃいいんだよ!」
そういい1人が鉄パイプを持ちこちらに目掛けて殴りかかってきた。それを『名前』は咄嗟に避ける。
「っ!」
「おいおい、避けるなよもっと酷くなるぜ?」
「っふふ……!だからって大人しく殴られるほど諦めいい人間じゃないっての!」
『名前』はジュラルミンケースを思いっきり振り上げて鉄パイプを構える彼の胸に思い切り横殴りした。
「ぎゃあ!?」
どうやら私が抵抗すると思っていなかったのか、彼らが微かに狼狽えたことで隙が生まれた。それを突いて私はそのまま走り逃げ出す。
「あっおい!クソッ、おいかけろ!」
「「「ウオオオオーーーーッ!!!」」」
───ああもうさっき走ってやっと落ち着いたところなのに!
『名前』は早くも痛み出した横腹を押さえて彼らから逃げる。
もちろん行先なんてない。
「はあっ……はぁ……っ!(こんな時に限ってどこにもいない……!『青年』、早くでてきてよ……!?)」
ドクドクとうるさく脈打つ心臓が痛い。怖さで勝手に目が潤む。
何より───こんなところで知らない誰かにやられるなんて真っ平御免だ!
抱えたジュラルミンケースの中に仕舞われたルフィ達の軌跡を思いつつ、『名前』はただただ走り続けた。