第10章 砂と予兆
質問に答えようとしない彼に舌打ちをし、その手配書を手に取る。ふとその紙質が本来ある手配書とは違ったものだと気付かされた。
『名前』の手配書だという事に気を取られすぎていたが、よく考えるとこの手配書は異常に質の良い紙、そして『名前』の顔は記載されていても彼女の名は一切書かれていない
何より───この手配書は青色の紙だった。
「俺は投獄されていたから一応聞くが、青色の手配書は前からあンのか?」
「いや……初めて見る」
「やはりな。事前に別の奴に聞かされていたとは言ったが、それは前フラミンゴ野郎が寄越してきた」
「あいつが……?」
彼がこの船に来た時のことを思い出す。もしも彼女に賞金をかけられていたのなら確実に話題に出して、こちらの反応を伺うだろう。
だがあの時そうでなかったとすれば、この手配書は傷一つない紙の通り、ドフラミンゴがここに来てから出回ったもの……かなり最近に出されたものとなる。
よく考えてみれば手配書がでていればそれこそ船内で話題になっているはずだ。それも聞かないとなると、かなり限られた者にだけ出回っていると推測できる。
否、そもそもこの手配書が海軍発行の記載がない以上それも必然だろう。
「海軍発行の記載もねェ、名前も不明の癖に生け捕りにしろとまでいいやがる。手配書としてはメチャクチャだ。」
改めてテゾーロはその素人の作りである手配書を眺める。その出来に思わずクスリと笑ってしまった。
「どこから出たものかは知らないが標的がただの人間とはいえ、この粗雑な情報に生け捕りの指定……受ける物好きがいるとはおもえないな」
「──普通はそうだろうな」
クロコダイルの言葉にテゾーロは勢いよく振り向いた
「どういう意味だ」
「普通はこんなモンやろうとは思わねェ。指示は多いし3000万ベリー程度、その上"この船"の幹部……だが」
彼は灰皿に押し付けていた葉巻にさらに力を込めてそれを潰した
「───お前が地獄に落とした、この船にいる奴らはどうだろうなァ?」
「!!……お前っ──」
クロコダイルは悪そうな笑みを浮かべてテゾーロに体を向ける
「クハハハ!あいつは俺を守るためにここに残したようだが、どうやら本当に危ねェのはあっちじゃねェか?」
「っ……ぐ」
テゾーロは嫌な想像が浮かび、すぐに部屋を後にした。