第10章 砂と予兆
「……表側のルールの話、ですか?」
「あァそうだ、お前ならこいつの使い方もわかっているだろう?」
テゾーロは私を試すかのように含みのある言い方をした。……彼はクロコダイルを早くどこかにやりたいと考えているとだけわかる。尚更私は引き下がれないのだが。
「もちろんそのことも理解しています。だから"私の部屋を"と言ったんです」
「!?」
「私の部屋で何かが起こった時は私が必然的に責任をとらなければなりませんよね?──私は覚悟を決めてると言ってるんですよ。」
『名前』はニッコリと満面の笑みでそう言った。それを聞きテゾーロとクロコダイルは驚き……いや、ドン引きしている。テゾーロがそのままの顔でついずっと控えていた思いがでてしまった。
「……死に急ぎというか、その生き様でよくまだ頭の中を花畑でいられるな」
「はい?」
喧嘩売ってるのかコイツと少し低音がちな声で『名前』が聞き返すと、二人の会話を面白そうに聞いていたクロコダイルがさらに嘲笑しつつ、つい2人の会話に口出ししてしまった。
「クハハ……ここまで来るとそういう気とかの次元じゃねェな」
「えっ貴方まで!?」
クロコダイルも先程までは『名前』がどういった理由で自身の処遇を決めるのか、彼女の手腕がどれほどのものかを知れると期待して聞いていた。
だが、まるで今の彼女は女が惚れた男のために自身を犠牲にしてまでするような行動をとっている。だが彼女からは惚れたとかそういった様子は全く見られない。
かといって会うもの皆が友達とでもいうな異常なお人好しとはまた別に見える。──何を考えているのか一切読めない。なぜ俺をそこまで庇う?
……なんて思われている『名前』は2人の反応に全然納得がいかず、ただただ不服そうにしていた。
その様子に本当に馬鹿だなこいつとクロコダイルが哀れみをもって彼女に説明した。
「よく考えろ、お前の仕事量を察するに幹部はお飾りには見えねェ……クク、この部屋を漁るだけでもこの船に打撃を与えるような情報くらい簡単にありそうだな」
「まあ、そうかもしれませんね」
「……それに俺がお前の寝首をかかないとは限らねェだろ」
「私が不躾をすれば有り得るかもしれませんね」
「……まさか、俺がここで大人しくすると本気で思ってやがるのか!?」