第10章 砂と予兆
「……それがどうした」
「彼が来られてから利益が大幅に落ちています。テゾーロ様も気づいているはずです。あれからしばらくはショーの空席具合が目立ったでしょう?」
「!」
ドフィがTHE REOROに来た際、人だかりのエントランスに彼の畏怖によって道が生まれたことを思い出す。
あのように彼はこの世界では相当恐れられた存在で、彼がグラン・テゾーロにいると周知されただけでしばらくは客足が落ち、利益が大幅に落ちていることが先日データとして現れたのだ。
現在はドフィはもういないと認知されたからか落ち着き、戻りつつあるが……そんな状態で脱獄囚がいると知られたら、また同じことになるかもしれない。
「今グラン・テゾーロは彼の騒動により欠勤していた部下達も復帰してやっと本調子に戻ったところです。今ここで彼の存在が広まると、信頼に欠けます──部下にもお客様にも。」
「……」
──と、ここまでが私の建前
クロコダイルが脱獄したと世に知らせずに、『青年』に相談するまで彼をここに留まらせることが本当の目的だ。
もちろん私の部屋を使わずとも、この船の海軍は海賊に手を出せないルールを使えば彼を守れることは充分に承知している。
──ただ政府不介入の夢の街と謳う、それは表の話。
物語にはなかったが、実を言うとテゾーロは治安維持の建前をもって、裏では海軍と契約を交わし賞金と恩を売るために暗に捕縛することもザラにあるのだ。
……アラバスタの一国をメチャクチャにした彼をテゾーロが政府との交渉材料に使わずに無視するとは思えない。
最悪、テゾーロが海軍と手を組んでクロコダイルを捕縛する流れになると困る。私は『青年』に報告するまでは現状維持を目指したい。
受け入れてもらえるかと不安になりつつここまで言い切ってはみたが、テゾーロの表情は依然固い。彼の返答を私は待った。
一方テゾーロは一通り彼女の話を聞き、一度クロコダイルに視線を逸らす。彼の今後の処遇を話しているというのに、彼はテゾーロと『名前』の話を葉巻を嗜みつつ、その話の行く末を面白そうに聴いていた。
「……チッ、確かにお前の意見も理解できる……が、どこに身を隠させる?」
「というと?」
「ハハハ……思い出せ、こいつはただの脱獄囚ではない。一国を滅ぼしかけた男だ。ここは確かに政府不介入だが───」