第10章 砂と予兆
クロコダイルの発言でその場の空気が変わったこと、そして『名前』はずっと持っていた違和感の意味を聞くいい機会だと感じ彼の言葉を待った。
テゾーロも『名前』と同様に彼の中で思うところがあったのかクロコダイルに直接、問いかける。
「お前……やはり……」
「クハハハハ、あァそうだ俺は──海軍、いや世界の誰からも知られることなくインペルダウンから脱獄してきた、いわば"脱獄囚"だ」
「「!?」」
両者はただその事実に驚き目を見開く。ただ『名前』は嫌な予感がよぎった。
ここはワンピースの世界、そして本筋とは違うパラレルワールドもとい映画firm GOLDの世界。
そして私が今いる時間は映画と同じではなく、ドフラミンゴが没落していないドレスローザ編以前、2年前の世界となる。つまり物語には記載されていない今後が予想しにくい状態だ。
もちろん2年前と判明したあの日から何が起こるかわからないんだと身構えていたつもりだった。だが今回はまた違う問題が発生している。
本来クロコダイルは麦わらの一味に敗れ、悪事が暴かれたことにより海軍に連行。その後ルフィがエースを奪還するべくインペルダウンに向かいLEVEL6にて出会い、彼らは手を組むことで外に出る。ルフィの脱獄はもちろんマリンフォードでも活躍していたクロコダイルの協力は無くてはならないだろう。
──その彼が今目の前にいるはずがないし、このままだと物語の筋書き通りにならない可能性があるのだ。
「(このままだと最悪インペルダウンでルフィは力尽きることになるかもしれないんじゃ……?)」
たとえこれが正しい展開だったとしても元七武海および麦わらの一味と対峙したクロコダイルが脱獄したならば、物語のどこかにそれらしき描写があるはずだ。
物語通りにするにはただ一つ……
───彼を、インペルダウンへ再送還するしかない!
「おいおい顔が真っ青じゃねェか……そんなに驚くことねェだろ?」
「!……いえ、お気になさらず」
現状がかなり本筋から外れやすい、危うい状態だとわかった『名前』はクロコダイルに茶化されるほど強ばった表情となっていた。
いつもなら軽く営業スマイルなりなんなりをしてその場を上手く切り抜けるが、彼女の焦りがそれを許さない。わかりやすく彼女は目を逸らしてぎこちない笑顔になっている。