第10章 砂と予兆
「……まとめると私はただ彼を案内していたに過ぎません」
『名前』はひとまずテゾーロにクロコダイルと出会った経緯、そしてその後船内を案内していた一連の流れを説明した。ただ、彼が私の部屋にいる理由は正直に言っても補完できない。
そのため、私が両者が商談相手だったと聞いて独断でテゾーロと会うのに一番手っ取り早いであろう THE REORO 及び自室に入れたと誤魔化した。
だがそれを聞いたテゾーロは若干引いている。なんならクロコダイルも苦笑している。テゾーロは呆れ顔のまま『名前』を諭した。
「……お前はもう少し危機感を持て」
「? 失礼がないよう気をつけましたが」
「いやそういうことじゃなくてだな……」
微妙に噛み合っていないようだなと首を傾げるとそれを横で聞いていたクロコダイルが小さく笑った。それに反応したテゾーロが彼を睨む。
「何が可笑しい」
「ククク、諦めろ……こいつにそういう気はねェだろうよ」
「そういう気って?」
『名前』が聞くとテゾーロはため息を吐き、クロコダイルは更に笑った。
「な、なんで笑うんです!?」
それもそのはず彼らには理解できないが『名前』にとってクロコダイルはワンピース、もとい好きな物語のキャラクター
そのため彼女の中では彼もまた等しく物語の人物として一定の好意をもつ相手。彼女は端からこの世界の人相手に恋愛感情を持ち込んでいないのである。もちろんそれは相手がテゾーロであっても例外ではない。
つまり、彼女にとってクロコダイルなどの主要キャラクターが私なぞに適当にそういう事をしない相手だと認識しているし、彼らには彼らそれぞれの見合った相手がいると前提してこの場にいるのだ。
だがそんな考えをもてるのは現世から来たからこそのこと。クロコダイルとテゾーロには一切理解出来ないしそんな想像もしない。
クロコダイルは葉巻を一度指で持ち、灰を落としつつ『名前』を可哀想なものを見る目で見た。
「……今後が思いやられるな」
「!?(意味はわからないけどすごく失礼なこと言われてる!)」
「そんな無知の女につけ込んだお前は卑怯者じゃないか、クロコダイル」
テゾーロがそう煽るとクロコダイルは鼻で笑った
「そういうな、今の俺はこいつに縋りたくもなるくらいには窮地に追いやられてる……お前なら当然知ってるだろう」
「!」