第10章 砂と予兆
原作で見ていた時から思っていたが……彼の思考が読みづらすぎて今彼がこの場に現れた理由がわからない。
もちろん元七武海もとい秘密犯罪会社バロックワークスの社長だった彼ならばグラン・テゾーロに遊びに来ることも取引相手だとしても違和感はないのだが。
ただ、ひっかかるのが彼が私と会って第一声に言った
『まさかこんな場所で偶然に会えるとはな……』
が気になる。まるで私と会うことを目的の一つとしていたような口ぶりだ。彼がいわば物語の部外者である私になんの用があるのだろう?
いや、そんなことよりもそもそも彼は……
「おい」
「!なんでしょう」
どうやら夢中で考えすぎていたのか横にいる彼がこちらを睨んでいた。危ない、今はとにかく目の前にいる彼に集中せねば。
「一応聞いておくが、お前が『名前』で間違いないんだな」
「ええ、まあ」
「?………お前、自分がどういう状況かわかってねェのか」
「それはこの船でいう私の立場の話でしょうか?」
『名前』は彼の中にある本意を避ける質問に意味がわからないまま、とりあえず正直に答えていくとだんだんと呆れ顔になっていった。
「なんでそんな目でみるんです」
「……噂とまるで一致しねェな」
はあ?と顔にでている『名前』を無視してクロコダイルは一人でぶつくさと喋り出す。
「それでいてあの額……羽野郎までも拘りやがる……」
「ええと、話聞いてませんね?」
いきなり現れて質問してきたと思いきや今度は一人で喋り出す。なんなんだこの人。
なんでこの世界の主要人物はこうも読めないどころか意味がわからないんだろうか。
ひとまず、彼は私に何か特別な用があるわけでもなさそうだ。いや私に解決できなさそうというべきか。
依然ぶつくさと喋り続ける彼にずっとかまえない『名前』は手に持っていた煙草を鞄にしまって、屋上を後にしようと歩を進める。
それに気づきクロコダイルは彼女を呼び止めた。
「どこへ行く気だ」
「?どこって、仕事があるので」
「あぁ……」
この場に風に当たりに来たとはいえ決して私は暇じゃない。終わらない雑務がある。
彼は面倒くさそうに頭を搔き目を向けた。