第10章 砂と予兆
そこらの安い煙草なら風に流されるからまだしも、葉巻までくると流石に香りの強さも段違い。
風通しがよかろうとその場にしばらくは残るし、最初からいたなら既にわかっていたはずだ。
……だが周囲を見渡しても誰も見当たらない。
ただ足元に異様なほど砂利感があることに気づいた。ここは船の上かつ建物の屋上だからここまで汚れているはずは無いのだが。
「砂だ」
しゃがんで落ちていた砂は摘むと相当細かいことがわかる。零れ落ちた砂は途端、風に飛ばされ消えていく。輝きをもたないあたりテゾーロの金粉でもない。
摘んでいた砂を離して風に飛ばされていくのを眺めていると、誰かの影が私を覆うように地にうつる。それに気づくと同時に砂が頬を掠めた。
「まさかこんな場所で偶然に会えるとはな……」
───振り返ると葉巻を咥えた、片腕が金の鉤爪の男
そこにはいつしかの砂漠の王、クロコダイルがいた
突然現れた彼に驚き、煙草片手にしばらく硬直する。脳裏に『青年』とドフィが浮かび、ああこういうことかと察した。
……それはともかく完全に彼の前にしゃがみきった状態でどのタイミングで立ち上がってよいのかわからず困惑する。
その様子に気づいたのかクロコダイルは小さく笑って彼女の横に並んだ。
「ククク……にしても、ここはどこもかしこも眩しくて目が痛てェ」
彼は葉巻をふかして、ただ屋上からこの船の景色を眺めた。同様に『名前』も立ち上がり横に並び船内を見渡す。どの場所も注視すると思わず目を細くしてしまうほどいつも通り輝きに溢れていた。
確かに船内は金で出来ているものが多く、エンターテイメントシティなだけあってそういう世界観のもできているから煌びやか。彼の言うとおり悪くいえば目が痛い。彼がいた砂漠の太陽の眩しさとはまた違うのだろうか。
そう思いつつ横にいる彼の動きに注意を向け、次の動きを待った。
「そんなに俺が怖いか?」
「!」
私の恐れが表情と動きに出過ぎたのか、彼はバレバレだった私を嘲笑している。
だが彼の左手の代わりにある鉤爪はもちろん、何もなさそうな右手は彼の持つスナスナの実の能力で簡単に水分を飛ばして砂に帰してしまう。一般人の私は恐れて当たり前だ。
「正直、貴方のどこを切り取っても怖いです」
「フ、そうか」
続けて だろうな、という彼に『名前』は困惑した。