第10章 砂と予兆
場所は変わってTHE REOROとはまた別のホテルの屋上。利用者はもちろん私たちテゾーロの配下は自由に出入りできる場所だ。
「___本当に面倒だな……」
そこで『名前』はポツリと愚痴を零していた。
ここは主に喫煙スペースとして利用されるが、私は喫煙者ではないので風にあたり黄昏れることがほとんど。
どこよりも風通しが良く、人もほとんど来ないから自分を整理したいときにちょうど良い場所になっている。
今日は『青年』から告げられた今後あるであろう大量の面倒事について一度自分の中で整理したくてここに来た。
「まあ面倒事はもうこの世界に来た時点で受け入れる他ないけどさ……はぁ」
ここに来てから現世とは別の意味でのため息を何回もしている気がする。それだけ苦労が多いのは自覚しているが。
「『青年』の言う通り、そもそも能力がないって時点で私は苦労するに違いない、か……」
彼の能力の行使を表す彼の指鳴らしを思い出す。なんとなく自分の手をみて見よう見まねに鳴らしてみるが、もちろん破裂音が小さく鳴るだけで何もない。
……ふと、私の願いに違和感を感じた。
そもそも私は能力がない時点で私の願い__麦わらの一味の手助けをすること自体、難しいのではないだろうか?
私はカリーナのように立ち回れない、そもそもその手助けの役割を担っているのが彼女だから……
「___いや、考えたって意味が無いな、とりあえず今はこっちを解決しなきゃ」
『名前』は今その解決を急くのは辞めて鞄から煙草をとりだした。
これは先程『青年』との食事会を終えた後に向かった企業との商談にて、新しい商品を出すにあたり、相手に使用感についてお聞かせ願いたいと半ば無理やり渡されたサンプルの煙草だ。
女性用らしいがそもそもさっき言ったように私は煙草を吸わない。
この機会に吸うのもアリだが現世で働いていた頃、納期が迫っていて時間が無いのにヤニ切れで気性が荒くなっていた上司を思い出すと正直吸いたくない。
「たたでさえ忙しい時に煙草に取り憑かれたら大変だし他に当たり散らしそうで怖いからな……どうしようかな」
たかが1本で……とは思うがそれでハマってしまったらもう後戻りはできない。
「……?」
どうしようかと考えているとふわりと煙草の香りがした……この強さは、葉巻?