第10章 砂と予兆
目を細めて呆れの視線を送ると『青年』は不服そうにした。
「な!失礼な、もちろんその対策も考えてるから連れてきた人皆を様子見してるんだよ。この前も言ったろ!」
「!様子見って、無事かどうかだけじゃなくってそういう意味もあったんだ」
なるほど、異世界に転生させるにはそんな苦悩もあるのかと彼に軽く尊敬の眼差しを向ける。その視線に気付いたのか彼は口角を上げた。
「まあそんなこと絶対させないよ、俺強いから!見直した?」
「……」
無言に対して何か言えよと返してくる彼を無視して『名前』は食事に手をつけた。どうせ食事するなら自分への御褒美にいいところを予約しようと思い、この店を選んだが……うん美味しい。
「まあいいけどさ、でも今一番アンタが命の危機迫ってるけどね、それも常に」
「能力がないから?」
「それもあるけど、異世界者って世界から恩恵を得るほかにもいろいろあってね」
「……というと?」
そう聞くのを待ってましたと言わんばかりに彼は口元に弧を描く
「__異世界者ってさ、その人自身の異端さが理由からか"におう"んだよね」
「……それって住む国の食文化の違いで、たとえば身体から独特なスパイスの香りがするみたいな?」
「ちがうよ、そういうのじゃなくって……そうだな」
きょとんとする『名前』をじっと見つめる『青年』。なんなんだコイツと言いたげな彼女の顔に、ふと良い例えが浮かんだ。
「君の、大好きな人がよく言うじゃないか」
「……麦わらの一味?」
「そう、『冒険のにおいがするっ!!』って」
……なるほど、この世界特有の、いわば本能的な感覚といったところだろう。確かにこの世界の人達は直感力が研ぎ澄まされているように思える。
ただ、それをいう『青年』があまりにもドヤ顔で苛立ったのでまともに納得するのが癪で私は無視して食事を再開した。
「……これも美味しいな」
「えっ無視!?」
___
その後二人は軽く世間話や彼の自慢話が続き、なんやかんや楽しい食事会として終えた。
もう今のところ話すことはないだろうと料金を支払い、念の為人気の少ないところへ行ってから別れることになった。
「それじゃあ引き続き頑張るんだよ、今日はご馳走様『名前』」
「今後もアンタはタダ飯でしょ、その分サポートしてよね」