第10章 砂と予兆
はあ、とため息が聞こえそうな顔で『青年』はこちらを見る。彼が適当に頼んだスパゲティをフォークでまとめて口にいれ、そのまま喋り始めた。
「それはアンタがいようがいまいがルフィがやるじゃん」
「……そう、ルフィ最高だよね!」
話が噛み合わない返しに ダメだこいつ と言わんばかりの顔で彼は手に持つグラスに口をつける。心底つまらなそうだ。
『名前』は彼のその姿に む、と顔をしかめ、小皿に移したサラダの皿にフォークで音をたてて突いた。
「なんか文句ある?」
「いいや、アンタがここで天竜人ぶっ倒したいとでも言えば……面白い展開になりそうだったからさ」
「……もしもそうしてって言ったら?」
途端に『青年』の顔が曇りひとつない笑顔になる。だがそれでいてどす黒い裏面を感じるのは気の所為だろうか。
「___天竜人みんな倒して、マリージョアを焼く!」
「却下!」
……全然気の所為じゃなかった。
彼に何かを頼む時は最終手段だけにしようと『名前』は心に強く誓った。
「なんだよいいだろ、絶対スッキリするよ?」
「そんなことしたら確実に物語通りにならないでしょ!?ただでさえfirmGOLD前提で何が起こるかわからないのに……」
そう今いるこの世界はワンピースといっても本筋とは別の、firmGOLDおよび映画の世界。
何もしなくても物語には決して映らない麦わらの一味が来るまでの出来事や本筋からこの世界の設定にどう繋げるのか、何が起こるか予測不可能なのだ。
「まあ確かに真面目な話をするとあんまり変な行動は取らない方がいいだろうね、明確な目標やそれなりの能力があればまだしも君にはないんだから」
「確かにね、けど能力はまだしも目標って?」
『青年』はうまい美味い、といろんな料理に手をつけ食べつつ返事する。
「アンタの世界でいう夢小説みたいなもんだよ、例えばあれは目的が対象者と愛を深めること。そうなると本筋が関係なくなるけど……でもアンタにはそれがないじゃん。」
「まあそうだけど……ってもしかして夢小説って全部」
「どうだろうね?現世に帰ってくるにはこの世界の記憶が代償になるから──俺は知らないよ。ただ……」
誰かがその世界で俺の能力を超えた恩恵を得たなら別だけどね、とこれまた恐ろしいことを言った。
「……君って変なところ無責任だよね」