第10章 砂と予兆
「__改めまして『名前』の新たな人生、そして苦境を乗り越えたことを祝して!かんぱ〜い!」
「___おかげさまでなんとかなったわ ク ソ 野 郎 ! 」
「ギャア!?」
『名前』は乾杯の合図をとグラスを差し出してきた『青年』に対し、片手でその腕をテーブルに抑えつけ、もう片方の手で彼の頭に拳を振り下ろした。
彼が持つグラス内でシャンパンが大きく揺れると同時に彼から悲鳴があがる。
「痛ァ!?──俺はただ祝杯をあげようとしたのに!?」
「何が祝杯だ!前回急にアンタが急に違う世界に飛ばしたせいでこっちは死にかけたんだっつうの!!」
そう『名前』は前回、『青年』の能力で違う世界に飛ばされ姿を消したことで軽く騒動になり、たまたま不機嫌だったテゾーロに殺されかけたのである。
それもあり今回は彼のために時間をつくり個室を借りて食事会をおこなった。
「話の内容は重要だったけれど、普通事前に何か言ってからするでしょうが!」
「ご、ごめんって、確かに早急に判断し過ぎたけど正直君がそれでもここに残るだなんて思わなかったんだよ!」
「!それはそう、だけど」
確かに普通はいきなりこの世界に飛ばされた後に、天竜人の奴隷にされ、自身の願いを叶えるには程遠い状況を数ヶ月過ごした。
しかも最終的に自分が力になりたいと思う人達の敵に助けられ、彼の船に乗るという命がいくつあっても足りないこの状態で残ることを選択するのは正直馬鹿げているだろう。
だが『名前』的にはここまできたら願いを叶えなければ気が済まなくなっている。死ぬ可能性を受け入れてでも残ることを選択したのだ。
否、彼女は天竜人に強い怨念を抱いているのもあるが
「もちろん不本意だけどさ……天竜人の奴隷になったら普通この世界が嫌になるだろ」
「そらあまあ最初は帰りたかったけど」
「だろ!……天竜人を殺してやりたいとかは思わないの?」
さっきまでのふざけた雰囲気が一転し彼の目が据わる。その様子に少し怖く感じた。彼ならやろうと思えば本気で できて しまうのだから。
「天竜人に関してはキャラクターとして良いと思ってるし、正直憎めない部分もある──けどそれは私が読み手だからこその感想。奴隷だったときの苛立ちはある。」
「……というと?」
「___一発殴られてもらわなきゃ気が済まない!」