第9章 決意
……と、怒りをあらわにしても彼はこの通り就寝済み。苛立ちの矛先を何処にも向けられず、ただただ大きくため息をついた。
彼からなんとか抜け出した代償に乱れた髪を手ぐしてときつつ、彼女は身支度をしてこの場を後にしようとした、が
「う゛ぅ……」
「!」
ソファに残されたテゾーロが肌寒いのか身震いしつつ少し呻く。彼の姿を見てそのまま反射的に彼のベッドにおかれた毛布に目が入った。
「……あぁもう」
彼に腹が立とうとも、何度も苛立ちを覚えてもきっとこれからも私は彼を無視できないのだろう。鞄を出入り口付近においてまっすぐベッドへ向かい毛布を持つ。
本当はこのままソファで寝る彼に投げてやりたいぐらいだが、まあ彼は久しぶりに悪酔いしてこんなことになっているのだから今日ぐらい大目に見てあげようかな。
ふわふわでとろみのある、高そうな毛布を少し顔を強ばらせた彼にかける。暖かいのか満足そうな顔に戻った。
にしても普段じゃありえないあの乱れようを察するに相当疲れていたのだろうか、そんな虫の居所が悪い時にたまたま私が姿を消して……結果こうなったのだろう、多分。
悪いことをしたなと改めて反省し、ふと彼の乱れた髪に気づいた『名前』は軽くといて直した。彼はくすぐったかったのか声を漏らす。
「ん、ん……」
「あはは!ほんと人の気も知らないで、まあそれは私もそうか」
今日見る中では一番心安らかそうな顔をしている。見慣れていたのもあるがこうみると本当に綺麗な顔立ちをしているな。
「……おやすみ、テゾーロ」
今度こそ『名前』は出入り口においた鞄を持ち、彼の部屋を後にした。
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同時刻のとある船上にて、男二人が談笑している。一人は葉巻を咥え煙を吐き出す。もう一人は気味悪く笑い足を組んでいた。
「……で、急に何の用だ」
「フッフッフッ、面白ぇ話があってな」
彼は一つの手配書をテーブルに広げた。それは海軍公式のものではなく何処か別の組織からだされたものである。
「……見ない手配書だな、それに……いや、そもそも誰だこの女」
「彼奴 と 俺 の女だ」
「は?」
彼の驚きを表すかのように葉巻の先で僅かに耐えていた灰がぼとりと落ちる。
「フフ、意外か」
「お前そんなクチだったか?……何企んでやがる」
「別に何も企んじゃいねェよ……ただ会ってみろ、それだけだ。」