第9章 決意
そうして数10分ほど経過した頃だろうか、『名前』は彼の腕の中に抱かれつつ持ってきていた資料のことを考えていた。
「(まさかこうなるとは……この調子だと持ってきた資料は明日だな)」
まあ明日でも全然問題ない、建前だけれど といつもなら自分の中で強がっているが少し自分に正直になる。
酒に呑まれたからとはいえ、本調子ではない私に本音をだしてくれる彼に影響されたのだろう。
彼の酔いが覚め落ち着くまでこうしているか、と優しく規則的に彼の背を叩いていると急に彼の全体重がのしかかってきた。
「わっ!?」
「……」
バランスを崩してソファの上で彼が完全に覆いかぶさった状態になる。急な展開に『名前』は全くついていけない。テゾーロは黙ったままだ。
「ちょっ、急になんですか!? 」
「……」
「!確かに私はその……そういう慰め方だって知ってますけど、でも___」
「……ぐぅ」
「私っ__………"ぐぅ"?」
思わず彼の ぐぅ をそのまま返してしまった。ぐぅ?こいつ……寝てる?
「……まさか、酔いつぶれて寝たのこの人__ぐおっ!?」
そう気づいた途端かろうじて覆い被さるに留まっていた彼の腕の力がとけて、テゾーロの顔が『名前』の胸の中に落ちた。
近距離とはいえ成人男性の頭部が無制御で落ちてくると流石にうめき声がでてしまう。それに彼の気が抜けているから息がしにくい。
「……くる、し……っ」
「……すぅ」
「んの、重いっ……ほんと重いんだけどこの人っ……」
「……すぅすぅ」
あまりの重さと息苦しさに遂に『名前』はぷちんと堪忍袋の緒が切れた。
「___いい加減にしろ、こんっのアホゴールド!!!」
生命の危機を感じた『名前』は全力で彼の肩を掴んで思いっきり上に投げた。とはいっても一瞬、僅かに隙間が出来ただけだが。
だがその一瞬の隙間で彼の身体から逃れソファから上半身を降ろすことに成功した。そのままボサボサになった髪の毛のままで下半身もすっこ抜く。その姿はまるで貞子かのようになっていた。
「っはあ、死ぬかと思った…………」
「……すぅ」
対して眠りに完全に落ちているテゾーロ、なおも呑気そうな寝息に腹が立ってつい睨む。
「いい歳してるんだから酔いつぶれた時の自分がどうなるかくらいわかってるくせに……なに寝落ちしてるんだよバカ!」