第9章 決意
『名前』はずっとテゾーロの性格や設定を知っているからこそ、彼の予想外の対応に戸惑っていたが、それは彼女だけではない。
自分をよくわかっている本人も同様になぜそうしてしまうのか困惑していた。
思えば、『名前』を助けた時もあの時点ではグラン・テゾーロの……こちら側の手口を知っていただけなら彼女を無視して始末すれば早かったはず。
あの時は多大なリスクを承知で時間がないのもあり勢いのままおこなったが、だからといって赤の他人の為に天竜人に逆らう理由としては足りない。
そして……彼女が奴隷だったこともありふと自分の過去を思い出してしまうからか、情が湧きつい気にかけてしまう自分がいる。そのことには とうに気づいていた。
だがその情を寧ろ、跳ね除けそうなほど彼女はあまりにも……強い。そして彼女のその強さを伴った行動が周囲にあまりにもこびりつく。それは私も例外ではない。
今まさに彼女の言葉に、またかき乱されてしまうのだから。
……私が知ったばかりの彼女と同様の状態に陥っていた時のように、もう弱みを握られない、誰にもこんな姿を見せはしない。と思っていたのに。
「なんなんだ……クソッ」
「もう、口悪いですよ」
嫌な顔ひとつせず彼女はただ笑う。それがどれだけ私に影響を与えるのか彼女は知らない。そんなコイツが大嫌いだ。
「嫌いだ、お前が大嫌いだ」
「!」
テゾーロは弱々しく、まるで自分に言い聞かせるかのように言い続けた。その様子をみて『名前』は腕を広げる。
「……いやです?」
彼女の真意は探れないし私としてもプライドがある……が酒に呑まれてしまった脳は理性を容易く崩す。不本意だが再度彼女を腕の中に潜らせる。彼女もまた抱き締め返してくれた。
「!ふふ、正直に言いますけれどほんっと、酒臭いです」
「……嫌なら離れろ」
「やだなあ!私から腕を広げたのに、そんな理由で離れるわけがないじゃないですか」
顔が見えなくとも簡単に脳裏に浮かぶ『名前』の笑顔に、また腹立たしくなる
「……本当お前なんか、嫌いだ」
そういいつつテゾーロは『名前』の背を強く抱く。ふはっ、と彼女は笑った。
「私は、嫌いじゃないですよ」
『名前』は彼の背を優しく叩いた。